Dec 03, 2020 column

24:プレイステーション5の真の敵はどのプラットフォームなのか?

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業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。

24:プレイステーション5の真の敵はどのプラットフォームなのか?

23「 ”イケメンシリーズ”にみるグローバルニッチ ビジネスの大きな可能性」はこちら

ソニーとMicrosoftの新しいゲームプラットフォームの発売から1ヶ月近くが経ちました。新型コロナ騒動で大変な年になりましたが、2020年はゲーム業界にとって7年に一度の大きな節目の年になります。

PS4の発売時には日本でのローンチが後回しとなりましたが、今回は日本もグローバルローンチの中にはいることになり、その展開にも注目が集まりました。

以前のコラムでも触れましたが、いまだに欧米は巣ごもり需要の影響で、ビデオゲーム事業が絶好調。先般発表されたソニーの業績も市場の予想を大きく超えていましたが、その理由としてPS4の貢献が大きく寄与していました。

このような環境の中、PS5の受注状況も好調だったようで、ソニーの発表によるとPS4のローンチのスピードを大きく上回る状況だったそうです。ただし、コロナの影響もあり生産が注文に追い付かないということで、果たして今後どれくらい生産数を上げられるのかというのも当座の大きな課題のようです。一方、マイクロソフトの次世代機XBOXや任天堂の現行機Switchも欧米の受注状況がとても良いようで、こちらも生産がボトルネックとなっているようです。

この様に、ゲーム機は巣ごもり需要により、現在の新型コロナの感染拡大環境下で業界が後押しされている稀有な例となっています。

そのような追い風の中でも、PS5の人気はひときわ高く、XBOXをかなりリードしているようですが、この両者、新プラットフォームを導入するにあたり実は戦略が大きく異なってきています。

ソニーが目指すのは、ゲーマーにとって最高の環境と体験を提供する、いわゆる”The best place to play“ です。この目的を果たすために、グラフィック性能の向上だけでなく、ゲームのロードも瞬時に終わる最高のハードウェアと仕組みを提供しようとしているのです。

開発会社に対しても、PS5の性能を最高に引き出した排他的なスペックやプレイできる独占期間など、他のプラットフォームと比べて特別なExclusiveな要求を出しています。まさに、ハードから成長してきた企業のDNAを活かした戦略と言えるでしょう。

一方のマイクロソフトが目指すのは、なるべく多くのゲーマーを取り込むべく、ターゲットによって多様なサービスを展開していく路線です。ハードウェアの展開だけでなく、サブスクリプションのサービスを充実させ、ユーザーの囲い込みをしようと試んでいます。

開発会社に対しても、ほぼExclusiveな要求はありません。とにかく、すべての良いゲームを集めようとしているのです。コンソールでもPCでも利用できるGame Pass に加え、XBOXの購入まで月賦払いにしたXBOX All Access、更にはクラウドゲームのxCloud ではより対象が広い、ストリーミング分野のユーザーを取りに行く施策です。

もはやハードウェアとは切り離された“ユーザーサービス”を目指しているようにも見え、ハードウェアのソニーと比較して、サービスとクラウドというマイクロソフトのDNAを強く打ち出した戦略をとっています。果たして、どちらの戦略が優れているか、一般論で議論するのは非常に難しい問題です。

例えば、昔AppleがMacの展開をする際には、バーティカルにOSからハードまで一貫して展開したのに対し、マイクロソフトはOSに特化して、PC端末を開発販売するハードウェア会社各社を巻き込みました。結果Windowsを展開したマイクロソフトの方が戦略的に優れていた為、PCマーケットで勝利しました。

ところが、スマホの世界ではAppleがMacと同じバーティカル戦略を取り、世界で一番の企業価値を実現していることを考えると、ソニーがプレイステーションでハードウェアを含めたハイエンドのユーザーをしっかり囲っていくというのが間違っているとは言えません。ゲームサブスクリプションの領域には、Amazon、Facebook、Apple、GoogleといったいわゆるGAFAがもれなく参入を宣言しており、今後更に競争が激しくなるのは見えているのです。

当然、プラットフォーム、コンテンツ各社の代表およびCSOに当たる戦略家は、世界のゲームマーケットの行方、自社のドメインの定義、ユーザーの定義、音楽業界やテレビの業界で起きたことの観察、今後技術動向、また戦略的な選択肢について、大胆に深く考えていることでしょう。

詳しくは書けないものの、私もゲーム事業の戦略を考える立場の一員として、さまざまな分析や情報交換、交渉などを行なっており、緊張感の高い時間を過ごしています。

AppleがiPhoneを出したことがきっかけで、現在のスマートフォン業界で大きなポジションを押さえたことと同様に、外から見て企業の踏むステップが小さく見えていたとしても実は非常に大きなステップである場合もあります。

私の古巣であるソニーは果たして自社のゲームマーケットとビジネスをどう定義して今後展開していくのか?現在の路線を突っ走るのか、またはGAFAと一戦交えることになるクラウドビジネスに参入していくのか。はたまたどこかの企業と協業するのか?PS5の本当の敵は一体誰なのか?

現在ゲーム業界に携わっていて、今この瞬間に立ち会えていることにワクワクしています。

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。

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