Oct 15, 2020 column

17:時代は回りピンチもチャンスも何度もやってくる、常に備えをしておく事の大切さ

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もう一つの向かい風は、これも50年に一度の危機といわれたリーマンショックです。実は、事業的にはこの影響をキューエンタテインメントは大きく受けました。実際、海外で受注していた大型案件の大半を瞬時に失うことになり、異常な円高ユーロ安の影響が、かろうじて残っていた他のビジネスにも、収益的に大打撃を与えたのです。

余談になりますが、リーマンショックの前に大きなコンペに負けて受注をしそこなった案件がありました。もしコンペに勝ってその案件を受注していたら、大きな被害を受けて会社はつぶれていたかもしれません。その案件を取ったのは、友人でもある岡本吉起さん率いるゲームリパブリック。この案件で発注者が途中で倒産し、ゲームリパブリックは大打撃を受けたそうで、一時期は再起不能と呼ばれる状況にまで追い込まれまれています。岡本さんはその後、モンスターストライクで奇跡の大復活を果たしますが、こうなってくると、何が功を奏するのかわかりません。

現在、人類が経験をしたことがないCOVID-19、いわゆる新型コロナで世界中が危機的状況のさなかにいますが、今後も何らかの大きな波は社会を襲うはずです。本当に“言うは易し行うが難し”なのですが、備えておくという心構えは必要です。

それは、すべてのケースのために保険を掛けるという意味ではありません。こういう時がチャンスという人もいるし、時代にはサイクルがあるということを念頭に、いろんなケースを想定して頭を柔軟にして動くための準備を常に意識しておくということです。

結局、私はキューエンタテインメントを売却しましたが、いざとなったら会社を守ることに固執しすぎないというシナリオですら頭に入れておくことも必要な準備だと思っています。長年、会社勤めをするとこういう危機管理の感覚が鈍るというか、それでもやっていけると思いますが、起業をするときには少し広い視点で自分の危機管理、もしくはチャンスをうかがうという心構えを持っておきたいということです。ちなみに、これから社会の変化はさらに激しくなるため、サラリーマンであったとしても今後のキャリアを考える上で必要になる心構えと相通ずるのではないかと思います。

キューエンタテインメント時代、私は自由旅行を楽しむバックパッカーになったようなものだと言っていました。自分達の好奇心でチャンスを捜し、その場所に訪れ、探求していく。だめなら、次の街(案件)を見ていく。旅行のプロセスや自分だけの発見を見つけながら楽しむという感覚。安い宿に泊まり、安い飛行機で移動するような、ツアー旅行を楽しむ人にとっては不便と思える状況でも、へっちゃらでむしろ楽しいと自分に言い聞かせる言葉であったと思います。

ツアー団体旅行のような会社勤めを続けていませんか。まあまあやりがいもあるし、快適だけど、自由時間は限られ、ルールを守り、行き先も決まっています。自分の好奇心、工夫があまり求められない。見る景色も表面だけになりがち。これから、皆さんは時代の要請でこの自由旅行とツアーをうまく組み合わせて生きることを要求されるのではないでしょうか。今回のお話が、小さなことからでも、皆さんの自由旅行的なプロジェクトを始める刺激になればいいなと思っております。

ゲーム関連のコンファレンス会場近辺にて撮影 : 水口哲也、著者、Wabisabi Design CEO Oscar Yasser Noriega

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。