Oct 08, 2020 column

16:独立後に変化した仕事への向き合い方と考え方

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自分達の運命は自分たちで決める

起業をして、オフィスを構えるにあたり、当初は経済的な観点から会議室のあるオフィスすら借りることができませんでした。前職のディズニーでも個人のオフィスがあり、きれいな環境にいることに慣れていた身からすると、様々な思考の転換を迫られました。例えば、新しい人に会う際に、会社やその職位が自分の信用を保証してくれます。ソニーやディズニーのことを知らないビジネスマンはいないと言ってもいいでしょう。ところが、自分の立ち上げた新しい会社となると、会社の紹介、自分の信用を売り込むことから始めなくてはいけません。

さらにビデオゲーム業界では、私たちのことを知ってくれている人がそれなりにいて、多くの場合、作品のピッチまではすんなり入ることができましたが、モバイルゲームの業界においては、投資家やモバイルのアプリ関係者、携帯キャリアの関係者などに対して会社のことを認知されていないため、会社のビジョンを含めた紹介から会議が始まります。

しかも、ほとんど新参者として扱われ、場合によって丁寧な対応であっても門前払いということもあるのです。プレイステーションの時は大変と言いながらも、ソニーの大看板があり、また素晴らしい技術を持っていることがどれだけすごいことかその時に痛感しました。

こういう時に、自分の立ち位置をどこに置くのか、今までやってきたことを深堀していくのか、少しストレッチしてでも新天地も目指すのかのは悩ましい分岐点になるかもしれません。自分がよく知るビジネス領域を深く掘りながら強みを作り、そのビジネスを進化させていくのも一つの選択肢です。

私は外に目を向けて、変化が激しく高い成長に挑戦していくことに喜びを感じていたので、当時は事業領域を広げる決断をします。欧米向けにゲームを開発、台湾からゲームをライセンスしPCのMMOオンラインゲームを運営、モバイルゲームの開発にもDeNA、Gree,、mixiといったモバイルソーシャルゲームにも最初から挑戦していきました。

いずれにせよ、自分たちの事業ドメインを規定していくのは雇ってくれている会社でなく、会社を運営している自分たちになるということが大きな違いになります。自分だけ、もしくは少ないマネジメントチームで物事ややり方を決めていく、文化を作っていくというのは、サラリーマンの立場としてはなかなか発想がむつかしい思考だと思います。

自分で会社を興すときには、それが自分一人の小さな会社であっても、従業員がいても、ビジネスドメインは自分で決めていかなければなりません。この、決断し試行錯誤しながら進んでいく能力は、効率的な決まったプロセスで効果を出していく能力とは違ったものであり、問題提起を自ら行っていく能力が起業には必要な能力となるのです。

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。