Sep 03, 2020 column

11: グローバル視点でみるエンタメ業界の5つのビッグトレンド(3)−エコシステムとスーパーコンテンツ

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第五の波:スーパーコンテンツの躍進とグローバルニッチの登場

ネットが世界をつなげたことによって、GAFAMをはじめとしたマスメディアを超えるメディアが立ち上がってきました。

最近ではe-Sportsの世界大会でティーンエイジャーが優勝し、賞金2億円近くも稼ぐなど、もはやその影響力もエコシステムも収益もサービスの規模も、今までの基準でははかり知れないものとなりました。このような今まででは考えられないようなゲームを超巨大な“スーパーコンテンツ”と呼び、今までのコンテンツとは別物として扱う風潮が業界で出てきています。

日本で、『パズルアンドドラゴン(パズドラ)』というスマホ向けゲームが登場したとき、業界関係者はその数字のすごさを信じることができませんでした。毎月100億円以上も稼ぐコンテンツがあり得るのかという感想です。まさに“スーパーコンテンツ”です。

エンターテインメントビジネスでは、時代を代表するような大ヒット作品はあらゆる分野で時々出るのですが、もはやブームを超えた巨大ビジネスにまで進化した“スーパーコンテンツ”はまるでディズニーランドのように、大規模で長い期間、刺激的で楽しませてくれるものになりました。

全世界にまたがる“スーパーコンテンツ”を、日本の企業が排出していけないかといえば、私はそうでもないと思っています。ネットやコミュニティのインフラ環境の発展のおかげで、ニッチなテーマがグローバルに効率よく届く時代になっているからです。その良いお手本が韓流のアイドルでしょう。

彼らは、アジアだけでなく、欧州、米国、そして南米までYouTubeなどで展開し、ライブツアーを敢行してファンベースを築いているのです。日本のアイドルやアニメアーティスト、初音ミク、キズナアイなどのVTuberでも創意工夫をもって、世界で支持を得ているニッチなサービスは増えています。

私が前職で社長を務めていたスマホゲームを展開するサイバードという会社では、女性向け恋愛ゲームが収益の中心でした。社員のコミュニティマネージャーが考えついた、イケメンのコスプレによる壁ドンイベントには、LAでもシンガポールでも長蛇の列が出き、戦国武将との恋愛ゲームがグローバルマーケットでとても高い売り上げをあげるという、予想以上の結果を見たときには、時代の変化やニッチパワーの威力を実感しました。

このエピソードを読んで、おそらく皆さんはこのような癖のあるコンテンツのユーザーの大部分はアジア系なのでは?と予想したのではないでしょうか。実際に現場で実感したのは、ユーザーの国籍や人種の幅は白人、黒人、ヒスパニック、東洋人ととても広いものでした。そういう意味では、とても深いコンテクストを持つ日本のコンテンツ企業にとって、このグローバルニッチのファンベース獲得はとても可能性の高いエリアだと言えるでしょう。ファンをネットベースできちんとつかんでいくことで、予想外に簡単にグローバルのチャンスがあるのではないでしょうか。

音楽、映像、ゲームといったエンターテインメントビジネスの中心であったパッケージビジネスの在り方が、GAFAMや BATの参入もあり大いに変容し、それぞれの領域でそれぞれのエコシステムが変容・進化していく、今まさにその過程に業界はいると思っています。このトレンドをうまくとらえ進化できるプレイヤーが勝者になっていくのではないでしょうか。

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。