業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。
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今回は、5つのBig Trendの残りの2つ、コンテンツエコシステムとスーパーコンテンツの話です。
第四の波:コンテンツエコシステムの大変動
音楽業界の頂点に君臨していたのは長い間レコード会社でした。レコード会社ではA&Rという業界人にとってあこがれの部署があります。アーティストを発掘し、寄り添い、ヒットを作るディレクター、もしくはマーケッターのような存在です。
メディアに対する知見も高く、優秀なA&Rはラジオ局、雑誌、そしてテレビ局のプロデューサーやディレクターたちと深い交流があり、テレビの情報番組、新作ドラマの主題歌に関して常にアンテナを張り巡らしているのです。常日頃より、業界人ネットワークをもって自分のアーティストを売るための方程式をつくった音楽業界人の中心ポジションなのです。
ところが、今までのようにドラマの主題歌を獲得してCDが売れるという公式がなくなり、ネット経由で新たな音楽に出会う世界になり、アーティストがCDなどのパッケージ販売ではなくライブやネット配信で稼ぐようになってくると、音楽ビジネスのエコシステムが変わってしまいました。レコード会社の貢献が非常に小さくなってしまったのです。
ましてや、消費者も音楽を聴くためにCDを買わなくてよくなった為に、パッケージを売る会社としてのレコード会社の存在意義を問うような時代に入ってきたのです。私が当時社長として在籍していたワーナーミュージックは、非常に豊富な洋楽や邦楽のライブラリーがあったため、サブスクリプションへの移行を躊躇していた他のレコード会社に比べて、より積極的に違うエコシステムに移行していく方針を取りました。
また、動画の分野では、アニメーションがいち早く従来のエコシステムからの脱却をはかっていました。アニメ作品はテレビで流れただけでは制作サイドは儲かりませから、放映後のパッケージ販売や海外版権で稼ぐというのが数年前までの公式でした。しかし、今ではネットフリックスなどグローバル配信を行う企業が、アニメ作品への制作予算を大きく拠出しており、アニメの制作者にとっては、魅力的なモデルとなっています。
映画などで多く見受けられる日本特有の制作委員会というシステムも、このグローバルに展開する配信会社が作り出したエコシステムを脅威と感じているようです。日本で高い技術レベルを持つアニメ制作会社は、すでにネットフリックスに高いプライオリティを置き始めています。ここでもエコシステムが大きく変わり始めているのです。
ゲーム業界では、スマホゲームが登場し、更にGAFAMやBATが参入したことによるサブスクリプションモデルの登場、さらにゲームの基本プレイ無料で、後から課金するモデルなど、エコシステムが大きく変容し、どのエンターテインメントジャンルより進化し続けかつ成長を遂げています。
デジタルファーストで始まったゲームは、デジタル進化時代との相性も良く、まだまだ広範囲で進化を続けることが予想されます。5G、IoT、AI、Cloud といった今後来るであろう大きなトレンドとの相性も良く、一体どんなものに進化し広がっていくのか目が離せません。