業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史を語ります。
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当時の ロバート・A・アイガー(Robert A. Iger / 通称:ボブ・アイガー) は、次期CEO最有力候補のインターナショナル部門の社長でした。インターナショナル担当ということで時々来日していたのですが、驚くことに会議以外の席で会っても、私のことを覚えてくれていてファーストネームで呼んで気さくに話かけてくれるような人物でした。
会うたびに、何か困っていることはないかといろいろ聞いてくれるのですが、アイズナーとは真逆の性格で、あまりに人が良すぎてCEOにはなれないのではなかろうかと勝手な心配をしてしまったほどです。
アイズナーとアイガー、この性格が真逆の二人の経営者がそれぞれ苦境の立場だった会社をどのようなディズニーマジックをつかって再建したか、簡単に戦略的な視点をいれて紹介をしたいと思います。
様々な功績のなかでもアイズナーのアニメシリーズの施策は大当たりしました。また、シリーズ化に伴うビジネスモデルの組み立てもグローバルスケールのエンジンとなりました。毎年決まった時期に映画を公開し、企業を巻き込んだプロモーション、ライセンスプログラムを駆使して全世界的なブームを作り出すといったビジネスを作りあげたのです。
ディズニー社にはシナジーと呼ばれる各部門を越えた協力プログラムがあり、公開された映画がビデオ化やテレビ放映される際にも、企業とのコプロモーション、ライセンスプログラムの実施がなされていきます。この非常に発達したディズニーのライセンス部門が、会社に収益をもたらしながら、IPを拡大することを可能にしたビジネスエンジンのキーであったと思っています。
プロモーションプログラムは映画のリリースの2年以上前からはじまり、コカ・コーラやマクドナルドなどのグローバルパートナーとお互いが満足しあえるプロモーションプログラムを作り上げていきます。それ以外にも、アタックリストから旬のパートナーを世界の隅々まで探すため営業資料を早々に用意します。
ライセンス部隊はライセンス用のアート、ロゴ素材などスタイルガイドを用意し、映画公開時期にタイミングよく商品を出すための交渉を重ねてIPとビジネスの最大化を図っていきます。『キングダム ハーツ』を世に出すときに、私はこのプログラムを参照しディズニーの力を使って、当時の日本のゲーム業界でトップレベルのプロモーションを実現できたのですが、これはまたの機会にご紹介します。
このような素晴らしいビジネスモデルはタレントあってのものですが、アイズナーとの衝突でヒットメーカーの離脱もあり、その効力が衰えてきたのが私の在籍していた頃のディズニーでした。ただ、アイガーはアイズナーの残したこのビジネスエンジンを最大限に生かすことによってディズニーの大復活を実現するのです。