Aug 06, 2020 column

07:アイズナーの一言が最後の決め手『キングダム ハーツ』

A A
SHARE

私がディズニー社に在籍していた2000年代初頭は、マーケットに対するアイズナーの神通力も衰えを見せてきており、グローバルでの業績はよくありませんでした。一方、日本ではディズニーシーが開園したという事もあり、他国に比べると業績はとびぬけて良い状況でした。その視察と業績報告を受けるためにアイズナーが久しぶりに来日する事になったのです。

その際驚いたのは、日本でも権力を持つ創業者がいる企業や古い文化の大会社では社長とともに大勢の取り巻きが一緒に動く光景が見受けられますが、この時のアイズナーの取り巻きもすごい数で、100人近いマネジメントメンバーが、彼に併せて各国より来日したのです。

アイズナーへの業績報告は、日本で業績の良かったオーバーヴューをジャパンの代表、ビジネス報告をDivision Managing Directorが行うことになりました。担当しているゲーム事業の業績が良かったことや日本発のグローバル向けのディズニープロジェクトが走っているということで、私もプレゼンのメンバーでかつ注目の的になっていました。

プレゼン当日、日本と米国のマネジメント併せて100以上の方が出席していましたが、みんなの意識の中心はアイズナーただ一人。アイズナーは正面の席に構え、各プレゼンに対して質問と指示を次々に出していきます。欧米の会社の会議に見受けられるそれぞれのマネジメント、スタッフが発言するイメージをもっていたのですが、彼が発言をするのかしないのか空気をよみながら進行していくというまるで古い日本の会議のような様相でした。

ちなみに、アイズナーのいないときのディズニーの会議にそんな様子は全く見られません。ですので、その時彼に対して抱いたイメージはまるで「中国の皇帝みたいだなぁ」というものでした。

この日の私のプレゼンは、懸念の『キングダム ハーツ』の話も盛り込んでおり、事前に米国のボスやブランドマネジメントのヘッドを含めた周りのメンバーと事前に何回も打ち合わせをし、関係者にしっかり根回しもしていた甲斐もあり順調に進み、セッションが終わりに近づきます。

アイズナーは特段褒める事もなく、「これからも続けてちゃんとやれよ」という感じの励ましの言葉をいただきました。しかし、皇帝のお言葉の効果は絶大で、プレゼンのあとディズニー社の多くの幹部やスタッフが笑顔で握手をもとめてきたのです。前述したように、『キングダム ハーツ』はとにかく数多くの初物づくしの試みがされていたので、社内クリエイティブルール上問題となりうる懸念点がいくつもあったのです。

多くのマネジメントがニュートラルポジションをとっていたものの、アイズナーの励ましの言葉がその社内ルール問題や様々な懸念を吹き飛ばしてくれ、グループのみんなが正式にサポートしてもよいという承認を得たとみんなが解釈したのです。

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。