Dec 26, 2019 column

『2人のローマ教皇』と代表作に見るメイレレスの作家性の変化

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メイレレスの才能と作家性

『シティ・オブ・ゴッド』の次にメイレレスが撮った『ナイロビの蜂』(05年)は、スパイ小説の大家、ジョン・ル・カレの原作を基に、イギリスの外交官が陰謀に巻き込まれていく、スリリングな人間ドラマ。続く『ブラインドネス』(08年)は、ある日突然、失明に至る謎の感染症が世界中に蔓延する物語。SFパニック作品のようで、人間関係が重要なパートを占める野心作だった。この2作とも、映画のジャンルを超えたチャレンジ精神にあふれ、ルールに囚われないメイレレスの作家性を発見できるかもしれない。

『ナイロビの蜂』では、アフリカで救援活動にいそしみつつ、謎めいた行動もとる外交官の妻を演じたレイチェル・ワイズが、アカデミー賞助演女優賞を受賞。『ブラインドネス』では、木村佳乃、伊勢谷友介という日本人俳優を、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、ガエル・ガルシア・ベルナルと共演させ、不思議なケミストリーを発生させることに成功した。『シティ・オブ・ゴッド』の無名の子どもたちといい、俳優を新たな方向へ導く才能が、メイレレスにはあるのかもしれない。

『2人のローマ教皇』ではおそらく、アンソニー・ホプキンス、ジョナサン・プライスに好きなように演じさせたと思われるが、ローマ教皇の“素顔”を、名優たちの演技に鮮やかにリンクさせたのはメイレレスの演出によるもの。今年度の賞レースで、この2大名優が演技賞に大きく絡んでいるのも、監督の才能の証明に違いない。

『2人のローマ教皇』は、メイレレスのキャリアの中でも、おそらくもっとも“多幸感”あふれた後味がもたらされる一作。『シティ・オブ・ゴッド』では先鋭的だったスタイルが、名優2人を迎えて、重厚な感動とエンタメ的心地よさの見事な融合につながった。そんな映像作家の変化も、ぜひ観届けてほしい。

文/斉藤博昭

配信情報
Netflix映画『2人のローマ教皇』

カトリック教会における歴史的転換点をまたぐ2人のローマ教皇、ベネディクト16世(アンソニー・ホプキンス)とフランシスコ(ジョナサン・プライス)。保守派と進歩派の壁を超えたその友情を、実話に基づき描き出す。
監督:フェルナンド・メイレレス
脚本:アンソニー・マクカーテン
出演:アンソニー・ホプキンス、ジョナサン・プライス、フアン・ミヌヒン
独占配信中
公式サイト:https://www.netflix.com/jp/title/80174451

DVD情報
『シティ・オブ・ゴッド』

Blu-ray:4800円(税抜) DVD:3800円(税抜)
発売中
TCエンタテインメント、アスミック
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