⇒「新所沢レッツシネパーク」 ラクジュアリーなベッドルームシアター
⇒「ヒューマントラストシネマ渋谷」odessaがもたらす聴覚が進化した錯覚
⇒「新宿シネマカリテ」気高く優しい都心のオアシスシアター
「新所沢レッツシネパーク」 ラクジュアリーなベッドルームシアター
テアトル東京が運営する新所沢にある新所沢レッツシネパーク。こちらの映画館の最大の特徴は「寝ながら映画が観れる」ということ。テアトルシネマグループ特有のシックで少し控えめな色彩を感じさせつつも、エントランスは人肌を感じるぬくもりがある。作品の感動を広げてくれる装飾もあり、映画が好きなスタッフ達の、届けたい、広げたいという想いが汲み取れる。
スクリーンに入るとまず[隙間]の存在感に違和感を感じる。目に馴染んだ劇場の背もたれの水平線が存在しない。ひとつひとつのシートが独立しているため、両手を肘掛けに乗せても隣人の嫌な顔は浮かばない。腰を落とした際のクッション性は申し分なく、なにより前横の十分な余白にストレスの介入余地がない。さらなる贅沢に欲が出た方にはファーストプレミアムシートという電動リクライニング付きシートも用意があり、これまた他の劇場ではお目にかかれない代物だ。
そしてこちらが目玉の[BOXシート]。ご覧の通り、十分に寝転がれる贅沢空間。BOXシートとスクリーンの間には何もなく、完全に映画に入り込めるのも最高だ。BOXシートのお値段は大人だと最大3人までで通常価格4,000円。一人あたりにすると一般通常価格よりも安くなるのもまた良心的に感じる。それでいてこのラグジュアリー感。『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』の映画体験を最大化してくれる映画館のひとつであることは間違いないだろう。
「ヒューマントラストシネマ渋谷」odessaがもたらす聴覚が進化した錯覚
私は『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』を試写室(通常の劇場と設備レベルは変わらない)、そしてその後に音圧を全身で堪能する音響システム[odessa]が導入されているヒューマントラストシネマ渋谷のスクリーン1で鑑賞させてもらった。
[odessa]とは、高域、低域を1つのスピーカーから出力することにより、従来のスピーカーでは再現できなかった正確な音域をどの席にいても味わうことのできる代物だ。何よりミニシアターに最適化されたもので、スピーカーと空間の双方で成り立つ音質と音圧はヒューマントラストシネマ渋谷唯一のものだと言える。
こうは言っても聴く側の感覚としてどう感じるのかが伝わりにくいと思うので、、私なりの感想をお伝えしたい。明白に感じるのは、音の広がり、重低音の優しさ、包こむ層の分厚さ、そしてなにより音の存在感が全然違う。個人的にはバイオリンなどの弦楽器が奏でる重低音の響きをはっきりと感じることができた。こんなことは初めてで、自身の聴覚レベルが格段に上がった感覚にも陥る。楽器に精通している人に言わせると、ピアノがピアノで、バイオリンがバイオリンで聞こえるのが、この[odessa] システムの優れた本質だという。
現在のところ、日本でodessaのスピーカーで映画を観れるのはヒューマントラストシネマ渋谷のみである。ぜひ『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』の”そのままの音”を感じてほしい。
「新宿シネマカリテ」気高く優しい都心のオアシスシアター
新宿の喧騒の中で、ひとつ地下に入ればすぐに映画の世界に入り込める新宿シネマカリテ。都会のミニシアターらしく、エントランスを入ればスクリーンはすぐ目の前。その短い距離の中にも、歩数よりも多い新作映画のポスターやフライヤーがひしめき合って”映画館”を感じさせてくれる。
スクリーン1の扉の先に、映画をモチーフにしたオリジナルアクアアートが見える。現在(3/5時点)はもちろん『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』仕様に飾り付けがされている。音に漂う映画とも言えるので、アクアアートとのシンクロ率は高いものを感じる。
アクアアートを横目にスクリーンに入ると、赤一色の椅子が暗室に反射している。この赤い気品あるシートが新宿の隠れた憩いになる。
パリ・オペラ座やベルサイユ宮殿で使用されている[フランス・キネット社の椅子]。座り心地もまた上品に、柔らかく身体を支えてくれるので膝を組みがちな私でも、綺麗な姿勢でいることが苦でない。
身体の外で距離を確保する居心地もあるが、それが叶わない都心の狭さを逆手にとって、身体の内で感じる居心地の良さがある。私も、解放する「心地」がある一方で、内包する「心地」というものもあることをあらためて気付かされた。都心の喧騒で生きる人は少しだけ時間をつくって、アクアアートで目を休め、キネット社の椅子で脱力することをお勧めしたい。
いま一度映画館の素晴らしさを感じてほしい
ウィズコロナの期間も早いもので1年以上が経つ。一時期は映画館の密もリスクと叫ばれていたが、昨今では映画館の優れた換気性能もかなり認知されてきたと思う。換気性能の良さに加え、二酸化炭素濃度を定期的にチェックしたり、抗菌コーティングを設備に付したり、その上で都度観客の入れ替えごとに消毒作業を行うなど抜かりがない。またコロナ禍がリモートカルチャーの背中を押して、個人の絶対的なプライベートな時間やパーソナルな空間は侵食され続けている。心は思ったより疲れているはず。少しだけ自分に、自分だけの時間と空間をつくってあげてはいかがだろう。
日頃から映画館に行く人も、久しく行ってない人も、感染対策を万全に、ぜひ『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』を映画館の素晴らしさとともに体感してほしい。2度寝、3度寝も大歓迎なので。
(取材・文/オガサワラ ユウスケ )