3月26日に”体感”する至福の音楽会が開演
クラシックとエレクトロニック・ミュージックを融合させたポスト・クラシカルの雄として名のしれたマックス・リヒター。その類の音楽に疎い私などは、『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018年)、『アド・アストラ』(2019年)、『ある画家の数奇な運命』(2020)などの映画音楽をプロデュースした人と聞いたほうが身近に感じる。
本作はマックス・リヒターが睡眠を目的としたコンサートのドキュメンタリーだ。安らかな眠りとは、野生動物であれば死以外で得られる術はないものだ。それは人が長い歴史の中で勝ち得たもののひとつである。だが、またテクノロジーの進化とともに失いかけているものでもある。マックス・リヒターは、人々の無意識下に存在する「スリープ」という幸福に、自身の才能を注ぎ込んだ。
「聴くのも寝るのも自由です。携帯だけは切って。」
マックス・リヒターが真夜中のコンサートの開幕に合わせて、囁いた言葉だ。映画も同じくしてそれで良い気がする。
現代のテクノロジー社会では常にだれもがだれかの領域を侵食している。スマートフォンは絶えず世界とつながり、距離も時間も関係なく”だれか”を求めることが容易になってしまった。それゆえ、人は常に人に向き合っている。映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』は、そのつながりの呪縛から解き放ってくれる作品だ。
本作はマックス・リヒター個人のキャラクターやヒストリーは垣間見える程度で、パーソナルブランディングの色はかなり薄い。彼が取り組む「SLEEP」というプロジェクトがどのように世界に届けられているか、あくまでもそこに焦点が合っているドキュメンタリー映画だ。リヒター側の人物のみならず、寝具を持ってコンサートに訪れたオーディエンスたちの声もバランスよく録られている。「8時間の子守唄」と交わりながら聞こえてくる人の声は、どこか気持ちがよい。
劇場に放たれた音が私たちを何層にも包みこむような、そんなファンタジーな妄想を、目を瞑って広げたりする。想像以上に響く重低音は、無重力のような錯覚をもたらす。心の”地”のほう強く響く、心地の良い映画。それが『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』の私なりの感想だ。
新体験を与えてくれる劇場からの招待状
間違いなく言えるのは、本作はひと味違う映画体験を提供してくれる作品であり、それは映画館で味わうことを前提として成り立っている。[日常生活との遮断]を前提として、[サウンド]と[居心地]のクオリティが高ければ高いほど、最高の「SLEEP」を味わえるはずだ。
私の足が運べる範囲で恐縮だが、『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』の体験を最大化してくれる素晴らしい映画館の一部を紹介したい。
ちなみに本作、一部映画館では2度寝、3度寝様向けに割引を用意している(下記参照)。映画館をハシゴして少し違う体験を覗くのも、趣ある映画の嗜みだろう。ぜひ半券は取っておくことをお勧めする。
『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』は2度寝、3度寝、大歓迎! 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷・有楽町、新所沢レッツシネパーク、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸では、半券持参で¥1,000(他館の半券でもOK)※新所沢レッツシネパークは通常席(ファーストプレミアムシート・セカンドプレミアムシート)は半券提示で¥1,000、BOXプレミアムシートは半券提示で¥3,000
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