Nov 10, 2019 column

最新作で黄金布陣が再結集、『ターミネーター』前作2編を振り返る!

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低予算にあえいだ第1作、シュワ起用の裏話

1984年の『ターミネーター』第1作はじつにシンプルなSFアクションだった。死んでも死なないロボットに主人公が追い回されるという展開にはホラー映画の趣もある。監督ジェームズ・キャメロンにとっては、これが事実上のデビュー作だった。製作途中で監督を降板させられたイタリア映画『殺人魚フライングキラー』(81年)の現場から這々の体でLAに帰り、住むところもなく転がり込んだ友人宅で捲土重来となる新作の企画を練った。その時、キャメロンの脳裏に浮かんでいたのは、ローマで腹を壊して寝込んでいた際に見た悪夢だった。銀色に光る殺人ロボットが、包丁を握りしめて自分を殺しに来る…。このイメージに可能性を感じ取った盟友の若手プロデューサー、ゲイル・アン・ハードは資金調達に奔走。何とかオライオン映画との配給契約を取り付けた。

しかしオライオンは、若手のプロデューサーと無名監督にわずか400万ドルのみを提示。それ以上は何もしないと言い切った。ハードの粘り勝ちで何とか650万ドルまで予算は増えたものの、キャメロンの思い描いたヴィジョンを余すことなく実写化するには到底足りない低予算だった。

とはいえ自身の企画を映画として世間に叩きつける、そのミッションにキャメロンは燃えた。カネは出さないが口は出す映画会社は殺人マシーン、ターミネーター役に元アメフト・スーパースターであったO.J.シンプソンを、主人公を守るカイル・リース役にはアーノルド・シュワルツェネッガーを推してきた。O.J.はもちろんのこと、『コナン・ザ・グレート』(82年)で映画界に殴り込んできた後者も、キャメロンにとってはまずあり得ないキャスティング案だった。会社の執拗な要請でやむを得ずシュワルツェネッガーに会ってみた監督の心の中で、しかし何かが閃いた。もともとターミネーター役には中肉中背、むしろ痩せぎすな俳優をイメージしていた(86年の監督作『エイリアン2』で、アンドロイドのビショップを演じたランス・ヘンリクセンが最初の候補だった)。それでも自分の前に姿を現した、このボディビル上がりのオーストリア人のものすごい身体と、さらにものすごい顔つきはいったいどうだ。

シュワルツェネッガーもまた、本作に関してそこまで乗り気ではなかった。『コナン~』でスターダムに躍り出た本人としてみれば花も実もある役がやりたくて仕方ないわけで、台詞がちょっとしかない殺人ロボ役には疑問しかなかった。だがシュワルツェネッガーは持ち前のサービス精神と生真面目さでもってターミネーターについて思うところを延々喋り続け、キャメロンも思わずそのすごい顔をスケッチし続けた。このどうにも人間とは思えない男が、地獄の底まで追いかけてきたとしたら…? ジェームズ・キャメロンの心は決まっていた。その後、熱心にシュワルツェネッガーを説得し、この“オーストリアの巨木”がついに静止不能の殺人マシーンを演じることに決まった。

『ターミネーター』(Blu-ray・DVD 発売中) ©2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

そこからの歴史は誰もが知る通りだ。つねに低予算にあえぎ、主要な場面はほとんどすべて真夜中のLAでゲリラ撮影したという『ターミネーター』。108分のタイトな尺で、シュワルツェネッガーという圧倒的な暴力と人類の滅びという運命にひたすら抗うサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)とカイル・リース(マイケル・ビーン)のドラマを描ききった。配給会社オライオンがまともなプロモーションを打たなかったために爆発的な大ヒットこそ記録しなかったが、その後、ビデオソフトが発売されるにつれて映画は評判を呼び、全米で、そして世界中で知らない者のない作品へと成長していった。