ファミリー向けの作品が多いお正月映画で、大人の観客に強くアピールしそうなのが『アリー/ スター誕生』だ。俳優のブラッドリー・クーパーの初監督作で、主演を務めるのは世界的な歌姫のレディー・ガガ。すでに年末の賞レースにも絡み始め、その仕上がりも期待以上。『ボヘミアン・ラプソディ』など音楽映画に人気が集まる最近のブームにのって、この作品もどこまで支持を広げるか。『アリー/ スター誕生』の魅力に迫ってみた。
オスカー候補入り確実! 初監督・初主演作で新たなスター誕生
「スター誕生」というタイトルどおり、まさにこの映画が新たなスターへの道を切り開くことになった。ひとつは、レディー・ガガのスター女優への道。そしてもうひとつは、ブラッドリー・クーパーのスター監督への道だ。レディー・ガガにとっては初の主演映画で、クーパーにとっては初監督作品。ともに初のチャレンジが大成功し、すでに公開されたアメリカでは予想を上回る大ヒット。作品自体の評価も非常に高い。先日発表されたゴールデングローブ賞のノミネートでは、作品賞や主演男優賞、主演女優賞(ともにドラマ部門)、監督賞、歌曲賞と5部門で候補入りし、来年のアカデミー賞でも多部門でのノミネートは確実。主演女優賞や主題歌賞では受賞も有力視されている。
人気ミュージシャンのジャクソンが、コンサート後にふらりと立ち寄ったバーで、ショーに出演していたアリーのパフォーマンスに感動する。二人の心には互いへの愛が育まれ、ジャクソンのステージに飛び入りで出演したアリーは、類稀な歌の才能を発揮。やがてアリーはスターの階段を駆け上がるが、ジャクソンはアルコールとクスリに溺れ、身を滅ぼしていく。ショービジネスの裏側と、主人公二人のラブストーリーが展開していく一作だ。
当初、このプロジェクトは、クリント・イーストウッドが監督し、ビヨンセの主演でスタートしたが、ビヨンセの妊娠で中断。その後、イーストウッドも他の作品を優先したため、彼の監督作『アメリカン・スナイパー』に主演したブラッドリー・クーパーに監督が受け継がれた。その時点でビヨンセは契約の問題などで降板。レディー・ガガに主役が託されたのである。初監督という不安をよそに、クーパーの演出は的確そのもの。冒頭の、自身が演じるジャクソンのライブシーンから臨場感たっぷりで、観客をスクリーンの世界に引き込んでいく。ジャクソンとアリーのアップを多用するなど、二人の関係に感情移入させるテクニックも絶妙だ。
一方で主役を任されたレディー・ガガも、スターになる前のシーンでは、普段の彼女とは違う、ノーメイクに近い素顔で熱演。これも監督のこだわりだという。人生に不器用で、どこか自信なさげなアリーの内面が伝わるが、最初のパフォーマンスとしてバーで歌う「ラ・ヴィ・アン・ローズ」のシーンから、観客のハートを鷲づかみ! その後の要所での歌唱シーンでは、レディー・ガガらしいカリスマ性と圧倒的なボーカルのテクニックを発揮する。もちろん、スターになった後のアリーの、ジャクソンに対する複雑な思いも全身で体現し、後半はベテラン女優の貫禄とオーラが漂っている。
過去の『スター誕生』との繋がりとオマージュ
この『スター誕生』の物語が映画化されるのは、今回が4度目となる。最初の2作(1937年と1954年の『スタア誕生』)では、映画の世界が舞台になっていた。主人公は女優で、劇中でアカデミー賞も受賞する成功を収める。そして3回目の1976年の『スター誕生』で、ミュージシャンに設定が変更された。今回の『アリー/ スター誕生』は同作のリメイクと言えるだろう。基本的にどの作品でも、すでにスターの男が、出会った女性に才能を見出し、その立場が逆転していく。映画史では、「古典」と呼んでもいい王道のストーリーなのである。
1976年の『スター誕生』で男性側の主人公を演じたクリス・クリストファーソンは、今回の映画にも間接的に協力。ジャクソンのライブシーンが撮影された音楽フェスティバルでは、クリストファーソンもステージに立っていた。アリーの鼻が大きいというネタも、1976年版を受け継いでいるし、劇中でアリーが口ずさむ名曲「虹の彼方に」は、1954年版に主演したジュディ・ガーランドが『オズの魔法使』(39年)で歌った彼女の代表曲だったりと、これまでの作品へのオマージュも豊富だ。