Jun 30, 2019 column

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の壮大な主題&原作のミステリオの正体とは?

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『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16年)から始まった、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下:MCU)のフェイズ3は、6月28日公開の最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(以下『FFH』)で幕を閉じる。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年)という壮大な戦いの後、一変してしまった世界に残されたピーター・パーカーは、師であるトニー亡き後、己のアイデンティティを揺さぶる戦いに巻き込まれていく…。『FFH』に横たわる壮大なテーマを紐解くとともに、本作を象徴するキャラ“ミステリオ”に迫ってみよう。

「故郷から遠く離れた」ピーターが巡る成長の旅

前作『エンドゲーム』で、アベンジャーズたちによる活躍、ブラック・ウィドウ、そしてトニー・スターク/アイアンマンの尊い犠牲をもって地球は元の姿に戻った。アベンジャーズの面々がそれぞれの道を歩む中、ピーター・パーカー/スパイダーマン(トム・ホランド)も再び“いつもの日常”が動きだす。

しかし、自分が消え去っていた5年間に成長してしまった同級生たちとの差と溝。気になって仕方ないMJ(ゼンデイヤ)は相変わらずそっけなく、そんな彼女にイケメンのブラッド(レミー・ヒー)が急接近。家に帰ればメイおばさん(マリサ・トメイ)は、信頼するトニーの友人のハッピー(ジョン・ファヴロー)と何やら親密になっている…などなど、ピーターの新たな日常に訪れるのは悩みごとばかり。

何より彼を悩ますのは、トニーの不在。心の師であり父親代わりの存在の喪失は、まだ心が育ち切れていないピーターのマインドに暗い影を落とす。ハッピーもニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)も、何より形見のサングラスを遺したトニー自身が、ピーターこそ「次のアイアンマン」と推す。世間がトニーを賛辞すればするほど、ピーターは「自分はその器ではない、普通の高校生、普通の“親愛なる隣人”でいたい」と、重圧に耐えられず、逃避の姿勢を見せていく。「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉は、本作のピーターには馬の耳に念仏だ。

そんな圧から逃げるように長期の休みを利用して、同級生たちとの海外旅行に出かける。しかし、旅行先のイタリア・ヴェネチアで謎の外敵“エレメンタルズ”と交戦してからというもの、ニック・フューリーにピーターの休みは“支配”され、プラハ、ベルリン、果てはオランダ、ロンドン…と、ピーターは各地を転々としては、アイデンティティを揺るがす出来事に遭遇していく。

生まれ故郷であるニューヨーク・クイーンズの“親愛なる隣人”たるピーター/スパイダーマンが、世界に飛び出たことで時に深く落ち込み、思考をめぐらし、その中で自らの使命に目覚め一人の人間として/ヒーローとして、生まれ変わる…。まさに本作『ファー・フロム・ホーム』というタイトル――「故郷から遠く離れて」が示すように、力ある者が遠い地をさすらい、そのたびに試練を経験することで英雄へと成長を遂げていく“貴種流離譚”の定型である。

この成長のための旅は、ピーターに課せられた、MCUヒーローとしての通過儀礼に他ならない。『アイアンマン』(08年)ではトニーはアフガニスタンで自らの行ってきた過ちに気づき、テロと戦うことを決意し、『マイティ・ソー』(11年)にてソーは神の世界アスガルドから地球へ追放され、放浪する中で神の子たる使命を帯びていく…。MCUを彩る存在たちは、必ずと言っていいほど、流れ着いた地で自らを確立する経験を経て、ヒーローへと生まれ変わっている。

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』では力に己惚れた若者であり、『スパイダーマン:ホームカミング』(17年)では、トニーや気になる少女リズの気を引くために能力を使っていた“親愛なる隣人”のピーター。『FFH』ではついに自らの使命を受け入れて一歩進む。その姿はまるで、彼が憧れた偉大なるヒーローたちの系譜に連なるようだ(ピーターがトニーの遺した設備を使って新スーツを作っていく場面は、さながら『アイアンマン』でトニーがラボでアイアンマンスーツを試行錯誤しながら制作する姿に重なる。『アイアンマン』から見返してみると味わい深さ倍に!!)

ただのヒーローとしての成長だけでなく、メディアやSNSで真偽不明な情報が流れ、それによりピーターが困惑するという、“ポスト・トゥルース”時代を象徴する場面がいくつも登場する。SNSの発達による情報過多に加え、簡単に真実を編集できてしまう時代。巷に氾濫するウソ/本当を、ピーターは“ムズムズ”を使わずにかいくぐりながら自分なりの答えをどう導くのか? も本作を観る上でポイントになる。

トニーを失った世界で、新たなヒーローが誕生する。『FFH』は『エンドゲーム』という超ド級の大作の後を締めるというプレッシャーを、見事な円環構造の美しさをもって応えている。

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