「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」をはじめ、数々の国民的作品を世に送り出してきた漫画家・鳥山明。彼が「週刊少年ジャンプ」平成12年23号〜36・37号まで短期集中連載していた漫画「SAND LAND」が、20年以上の時を経て、劇場版アニメとして8月18日公開された。
舞台は、魔物と人間が共存する、水を失った砂漠の世界。悪魔の王子・ベルゼブブが、魔物のシーフ、人間の保安官・ラオと奇妙なトリオを組んで、砂漠のどこかにある”幻の泉”を探す危険な旅に出る、というもの。
「SAND LAND」が”圧倒的完成度を誇る名作”と称されるのはなぜか? それを紐解くことで、猛暑が続く2023年夏、爽快かつ軽く観られる本作を鑑賞する予備知識となれば幸いだ。
鳥山明が描いたマンガ「SAND LAND」
マンガ版「SAND LAND」は、鳥山明がアシスタントなしで全てひとりだけで仕上げ、自他ともに認める、圧倒的な気力と画だったと言われている作品だ。
このマンガ「SAND LAND」が連載されていたのは、「ドラゴンボール」連載終了後。Dr.マシリトこと初代鳥山担当の鳥嶋和彦氏が、少年ジャンプ編集長に戻ってきたことを機に始まった短期集中連載、人間とお化けが魔女の薬を買いに旅に出る「COWA!」、狐の呪いにかかった少年が、呪いを解くため千の命を救うために仕方なく旅に出る「カジカ」に続いての3作目となる。
発売中の「SAND LAND 完全版」(集英社刊)に掲載されている巻末インタビューで、鳥山明は、連載当時を振り返り、こう語っている。
「なぜか昔から水不足に関しての攻防ネタが好きなんです。」
「ようするに、老人とモンスターとミリタリーが描きたかったんでしょうね。」
「モンスター以外少年漫画では厳しいネタですが、こういう渋い世界観とストーリーにもチャレンジしようと思いました。『ドラゴンボール』以降はずっとそんな感じです。」
ファンの方はピンときたかもしれないが、これは鳥山明おなじみのテーマ。
「ドラゴンボール」で言えば、第21回天下一武道会で登場するナムも水不足の村を救うために出場したし、占いババの宮殿ではアックマン、魔導師バビディの部下に暗黒魔界の王ダーブラといった悪魔が、老人は言わずもがな亀仙人だ。
それ以前にも「SAND LAND」の要素が描かれている短編作品は少なくない。
悪魔の王子がなんだかんだ世の中を平和にしちゃう「GO! GO! ACKMAN ゴー!ゴー!アックマン」(「鳥山明○作劇場3」(1997年8月9日発行/集英社刊)に収録)。
老人が主人公の作品には、ただスズキのジムニーが描きたかったという、村長・硬岩鉄之進がポイ捨てした世界的スパイを懲らしめる「SONCHOH」(「鳥山明○作劇場2」(1988年3月15日発行/集英社刊)に収録)。
刑事、駐在を含めた保安官が登場する作品には、「ワンダーアイランド2」(「鳥山明○作劇場1」( 1983年7月15日発行/集英社刊)に収録)、「貯金戦士キャッシュマン」(「鳥山明○作劇場3」(1997年8月9日発行/集英社刊)に収録)があり、極め付けには、雨の降らない水不足の世界で水泥棒とそれを捕まえる保安官が登場する「PINK」(「鳥山明○作劇場2」(1988年3月15日発行/集英社刊)に収録)がある。
過去作品を踏まえると「SAND LAND」の個性的でユーモアあふれるキャラクター、メカニック、ストーリーは、まさに鳥山明のカラーが色濃く出ているといえるだろう。鳥山明自身、映画化にあたり受けたインタビューで「これを楽しいって言ってくれる人って、僕にとっては、わかってる神ファン!って感じじゃないでしょうか」と語っている。つまり鳥山マンガの全てが詰まっているといっても過言ではないのである。