Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』(独占配信中)
2月24日(日本時間25日)に開催される、第91回アカデミー賞授賞式。映画界最大のイベントは今年、さまざまなサプライズも起こりそうな予感だ。大混戦の作品賞に、配信系のNetflixの躍進、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ブラックパンサー』といった観客に愛された作品の受賞の行方、そして『万引き家族』『未来のミライ』のノミネート。結果の予想とともに、今年の授賞式の注目点を紹介しよう。
司会者不在、見事にばらけた前哨戦…「予想できない」アカデミー賞
今年のアカデミー賞全体をひとつのキーワードで表現するとしたら、「予想できない」という言葉になるだろう。最も予想できないのが、授章式のスタイルで、なんと30年ぶりに“司会者不在”が決まった。当初、司会者に決まっていたケヴィン・ハートが過去のツイート問題で降板し、結局、各賞のプレゼンターが登壇するだけの授賞式になる模様。余分なトークが減り、ショーアップに演出が割かれるのか? あらゆる意味で予想できない楽しさが待っている気がする。
「予想できない」といえば、最高の栄誉である作品賞の結果だ。例年はトップランナー1本と、それを猛追しそうな1~2本の争いで予想もしやすかったが、今年は稀に見る混戦が続いている。おそらく授賞式ギリギリまで予想は二転三転しそうだ。
最多10ノミネートは『ROMA/ローマ』と『女王陛下のお気に入り』で、その『ROMA/ローマ』と、『グリーンブック』が作品賞のトップランナーだが、他の作品も接戦で追いかけているのが現状。前哨戦の結果もバラバラで、最も注目されたゴールデン・グローブ賞では、ドラマ部門の作品賞が『ボヘミアン・ラプソディ』で、ミュージカル/コメディ部門が『グリーンブック』。『ROMA/ローマ』は入っていない……と思いきや、外国語映画賞を受賞している。ゴールデン・グローブの外国語映画賞は「作品賞の外国映画部門」という扱いなのである。
その他のアカデミー賞につながる前哨戦では、トロント国際映画祭の観客賞とPGA(全米製作者組合賞)を『グリーンブック』、放送映画批評家協会賞や英国アカデミー賞を『ROMA/ローマ』、SAG(全米俳優組合賞)のキャスト賞を『ブラックパンサー』、意外に作品賞につながるACEエディ賞(編集者組合賞)を『ボヘミアン・ラプソディ』と『女王陛下のお気に入り』と、もうバラバラ状態。2強作品のうち、『グリーンブック』はアカデミー賞で監督賞にノミネートされていないという不利な状況だし、『ROMA/ローマ』は配信のNetflix作品という点が波紋を呼んでいる。
オスカー向けだが“配信”作品…受賞すると映画界はどう変わる?
「予想できない」トピックとして最大の関心事が、この配信系作品へのアカデミーの対応だ。Netflix作品で、基本的に劇場で公開しない作品は「映画ではない」としてカンヌ国際映画祭はコンペティションに参加させないと決断。一方でヴェネチア国際映画祭では配信系も歓迎し、『ROMA/ローマ』が最高賞の金獅子賞に輝いた。アカデミー賞の基準では、ロサンゼルス郡内で7日間の劇場公開がノミネートの条件なので、Netflixは賞を狙う『ROMA/ローマ』などを配信前に限定的に劇場公開。さらにNetflixは大きな予算で『ROMA/ローマ』のオスカーキャンペーンを行ってきた。
『ゼロ・グラビティ』でもアカデミー賞監督賞を受賞したアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』は、モノクロ画面でメキシコシティの一家を、家政婦の目線で描いた静かな作品だが、映像や普遍的ドラマ、社会背景とのつながりなど、すべてが上質でまさにアカデミー賞向けの作品。まだ保守的なメンバーが多くを占めるアカデミー会員が、伝統的なスタイルではない“配信系”の作品に投票するのか? そのあたりも含め、Netflixが初の作品賞受賞なるかに注目が集まる。そしてもし『ROMA/ローマ』が作品賞に輝けば、今後、アカデミー賞を狙う作家性の強い作品を、Netflixなど配信系がさらに強化し、巨匠たちと手を組む流れは加速するだろう。