Feb 12, 2018 column

90年代に青春を過ごしたすべての人へ。90年代カルチャーと『リバーズ・エッジ』

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“広くゆっくりよどみ、臭い”河に身を投じたキャスト陣。今作は現代のティーンにどう映るのか?

 

映画『リバーズ・エッジ』では、原作に漂う90年代初頭の空気が、HYSTERIC GLAMOURを始めとする当時のitブランドの起用など細部まで神経を使ったスタイリスト・髙山エリによるスタイリングや、公衆電話やブラウン管テレビなどのプロップスやロケーションによって、忠実に再現されている。しかし、決してベタベタとした懐古主義で終わっていないのは、主人公・ハルナを演じた二階堂ふみや、山田役の吉沢亮など、現在の日本の空気をきちんとまとった若くして力量のある俳優陣の演技力によってもたらされているに他ならない。彼女や彼らは、あの頃の空気をリアルタイムで体験してないからこそ、頭でっかちにならずにスッと“広くゆっくりよどみ、臭い”河に身を投じることが出来たのだろう。

 

 

ところで、2012年に映画化された同じく岡崎京子作品の『ヘルタースケルター』には、今作でSUMIRE(CHARAと浅野忠信の長女でモデルとして活動中)が演じた吉川こずえと同じ名前を持つ女の子が描かれている。『ヘルタースケルター』で吉川こずえを演じたのは水原希子であり、ヒロインの沢尻エリカ演じるりりこが持っていないものを全て持ちながら摂食障害を患うバンビのような女の子であった。今作で描かれたこずえも摂食障害を持つ設定は同じだが、ハルナとこずえの距離感は、りりことこずえの距離感と少し違う。水原希子とSUMIREによる2人のこずえに想いを馳せるのも、本作の楽しみ方のひとつである。

 

 

感情の起伏に乏しいと言われ、未来に期待せず、堅実にいまを生きる傾向にある2018年のティーンに、この作品がどんな風に映るのか。90年代に青春時代を過ごしたサブカル少女たちが、渋谷シネマライズに『バッファロー’66』を観に行ったような気持ちで『リバーズ・エッジ』を鑑賞し、「ハルナ、まじ卍」とSNSに感想をアップするのか、公開後のSNSパトロールが楽しみである。

文/加藤蛍

 

 

作品情報

 

映画『リバーズ・エッジ』

「若草さん、今晩ヒマ? 僕の秘密の宝物、教えてあげる」。 若草ハルナ(二階堂ふみ)は、彼氏の観音崎(上杉柊平)がいじめる山田(吉沢亮)を助けたことをきっかけに、河原に放置された“死体”を目にする。「これを見ると勇気が出るんだ」と言う山田に絶句するハルナ。さらに、死体の存在を共有している後輩でモデルのこずえ(SUMIRE)が現れ、3人は特異な友情で結ばれていく。ゲイであることを隠し街では売春をする山田、そんな山田に過激な愛情を募らせるカンナ(森川葵)、暴力の衝動を押さえられない観音崎、大量の食糧を口にしては吐くこずえ、観音崎と体の関係を重ねるルミ(土居志央梨)。閉ざされた学校の淀んだ日常の中で、それぞれが爆発寸前の何かを膨らませていた。彼らの愛憎や孤独に巻き込まれ、強くあろうとするハルナもまた、何物にも執着が持てない空虚さを抱えていた。そんなある日、ハルナは新しい死体を見つけたという報せを山田から受ける…。

映画『リバーズ・エッジ』
原作:岡崎京子(「リバーズ・エッジ」宝島社)
出演:二階堂ふみ 吉沢亮
    上杉柊平 SUMIRE 土居志央梨  森川葵
監督:行定勲
脚本:瀬戸山美咲
配給:キノフィルムズ R15+
© 2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
2018年2月16日(金)公開
公式サイト:movie-riversedge.jp

 

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関連書籍

 

『リバーズ・エッジ オリジナル復刻版』岡崎京子/宝島社

1993年から94年にかけて雑誌『CUTiE』(宝島社)で連載された、岡崎京子による時代を超えた名作。1994年の初版の刊行後、2000年に“Wonderland Comics”として、2008年にはハードカバー愛蔵版として刊行されている。今作は初版の表紙カバーの復刻版。

 

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『イノセントワールド』桜井亜美/幻冬舎文庫

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