Mar 08, 2017 column

ドラマ『カルテット』“まさか”の逆転劇!その裏に脚本家・坂元裕二からミステリーの魅力を引き出した出会いがあった

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語っても語っても、語り尽くせないドラマ『カルテット』。

3月7日(火)、野球中継延長で1時間以上待った第8話のクライマックスは、まさか〜の展開で、12時近くになって眠くなった目もすっかり覚めた。

毎回毎回、面白かったが、まだそんな球をもっていたのか! 7話終了後から盛り上がった、時間軸がズレているというSF説もしくは叙述トリック説は早々に制作サイドに否定されたが、もっとびっくりの、早乙女真紀(元・巻真紀〈松たか子〉)が別人らしいというミステリー展開に。8話の冒頭、「4人の体が入れ替わっちゃうんです」と言う別府(松田龍平)の台詞があり、それがまさか、早乙女真紀という名のひとに、だれかが入れ替わってたの?っていう最後のびっくりの暗示だったという周到さだ。 しかも、すずめ(満島ひかり)の少女漫画チックな健気な片想い回かと思わせて最後にガツンと重い球を投げてきた。第1話から真紀が意味深に語り、8話でも歌っていた“まさか”の格言が、まるでドラマのすべてを操る呪文のように思えた。

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『カルテット』は才能あふれる脚本家・坂元裕二の作品のなかでもとりわけ傑作になるのではないか。ここまでこのドラマが盛り上がったわけは、ある“新しさ”があった。ここではそれについて説明したいと思う。

いまさら振り返るまでもないが、念のため『カルテット』の概要はこうだ。夫が行方不明になった(後に離婚)真紀(松たか子)、父から逃げたすずめ(満島ひかり)、妻子と別れた家森(高橋一生)と人生のはぐれ者たちが、世界的指揮者の孫である別府(松田龍平)とカルテットを組むことになり、別府の祖父が所有する軽井沢の山荘で共同生活をはじめる。 ドラマのキャッチコピーは「大人の恋は、やっかいだ」で、4人それぞれが想う人には想われず、全員片想いで、一方的な想いのベクトルが向きを変えて交わることないまま8話まで進んだわけだが、ここで、真紀が離婚したことによって別府とようやくいい感じになる? と思わせて、クライマックスで、何それ、どーゆーこと!という衝撃の展開に! これまでも、5話で真紀の夫役が宮藤官九郎であることが明かされたり、6話でその夫がいきなり有朱(吉岡里帆)を殺しちゃった!? とハラハラさせたり、次々と予想のななめ上をいく展開を見せてきたとはいえ、あと2回しかないのに、まだ先を全然見えなくさせるとは、つくづくやってくれます。

脚本家の坂元裕二は、台詞や設定がドラマチックで、見る者の想像力を喚起させるのりしろが広く、ハマる人は深くハマる作家性の強さをもつだけに、劇中のあれもこれも意味深で、ついには、劇中の小道具に記された日時などから“時間軸がズレている説”まで発生、それが一気に広まって、プロデューサーがドラマの公式twitterで「単純なミスだった」と火消しにかかるなんて事件まで起こった。

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なんでそんな『カルテット』SF説がまことしやかに盛り上がったかというと、6話が雪の山荘での悲劇のような展開になった点をはじめ、そもそも、最初に真紀が夫を殺したのではないか? という謎でドラマを引っ張っていた点、また、真紀だけでなく4人全員が他人に話せない秘密をもっている点など、『カルテット』がごくふつうのラブストーリーや、カルテットを組んだ4人の共同作業ものなどではないのではないかと強烈に匂わせていたからだ。