QTフィルモグラフィー 2007~2019
大ヒットを収めた『キル・ビル』以降、タランティーノはB級スラッシャー、戦争アクション、西部劇と異なるジャンルを作り上げた。しかしながら、このどれもがタランティーノ作品だと認識できる。これらの作品も、映画を信仰し、人生を捧げている彼が最後の10作目を制作する前に理解しておくべきだろう。
5.『デス・プルーフ in グラインドハウス』 (2007)
元スタントマンの殺人鬼とスタントウーマンたちの死闘を描く、B級感覚満載のスラッシャー・ムービー。タランティーノっぽさが最も色濃く滲み出た作品かもしれない。『キル・ビル』でユマ・サーマンのスタントを務めたゾーイ・ベルが、主演女優の一人として抜擢され、車のボンネットの上で命がけのアクションを演じているのだが、ある理由によってタランティーノが撮り直しを命じる逸話が興味深い。
6.『イングロリアス・バスターズ』 (2009)
第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、名誉なき野郎ども(イングロリアス・バスターズ)の過激で痛快な復讐を描く戦争アクション。ナチス親衛隊のハンス・ランダ役を演じたクリストフ・ヴァルツは、この芝居でカンヌ国際映画祭男優賞&アカデミー賞助演男優賞を受賞。一気に国際的スターの座を確立した。このドキュメンタリーでは、ダイアン・クルーガーがクリストフ・ヴァルツに首を絞められるシーンが、実は別のある人物の手による絞殺であったことが明かされる。
7.『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)
黒人奴隷のジャンゴが、元歯科医師の賞金稼ぎのキング・シュルツとタッグを組んで、生き別れた妻を取り戻そうとするウェスタン活劇。冷酷な農園主カルヴィンを演じたレオナルド・ディカプリオが、テーブルに手を叩きつけて血を流しながら芝居を続けたという逸話が、プロデューサーのステイシー・シェアによって語られる。THE役者魂!
8.『ヘイトフル・エイト』(2015)
賞金稼ぎ、女盗賊、保安官、兵士、カウボーイ‥‥。猛吹雪のロッジに閉じ込められた、ワケアリの8人。疑惑と憎悪が渦巻く、異色の密室ミステリー。様々なキャラクターをひとつの場所に押し込めて物語を転がしていくという設定は、『レザボア・ドッグス』の進化系と言える。カート・ラッセルが横暴な賞金稼ぎジョン・ルースを演じているが、このキャラクターは“ある映画界の大物”がモデルであることが暴露される。
9.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)
1969年8月9日に発生した、マンソン・ファミリーによるシャロン・テート殺害事件。かつてのハリウッドの光と影を、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの2大スター初共演で描いた作品が、この『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だ。このドキュメンタリーでは、これまでタッグを組んできたハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題を受けて、タランティーノが新しい製作会社で新作を撮影する姿が映し出されている。
そう、『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』がもうひとつ特徴的なのは、ワインスタインに関する証言も数多く収められていることだろう。タランティーノが彼の性暴力を「知っていた」と明かし、批判に晒されたことは記憶に新しい。監督のタラ・ウッドはその事実から逃げることなく、ワインスタイン問題にも切り込むことで、クエンティン・タランティーノというフィルムメーカーのリアルを“タブーなし”で描いてみせた。その姿勢は評価されるべきだろう。
映画を愛し、映画に愛された男。その正も邪も、このドキュメンタリーには詰まっている。
文 / 竹島ルイ
『レザボア・ドッグス』の伝説の耳切りシーンはこうして生まれた!『パルプ・フィクション』のジョン・トラヴォルタの役は、別の俳優の予定だった!『ジャッキー・ブラウン』の亡きロバート・フォスター感涙秘話。『キル・ビル』でのユマ・サーマン、事故の真相が今明かされる!タランティーノのスタントマンへの愛に胸が熱い『デス・プルーフ in グラインドハウス』。アカデミー賞俳優ジェイミー・フォックスが、『ジャンゴ 繋がれざる者』でタランティーノからまさかの説教!「クエンティンに殺されると思った」と語るダイアン・クルーガー、『イングロリアス・バスターズ』で何が?『ヘイトフル・エイト』の天才的脚本の裏側。最後にティム・ロスが「少し知っている」と明かす引退後の計画とは?謎めいたタランティーノの頭のなかを、ぶった斬る!
監督・脚本:タラ・ウッド
出演:ゾーイ・ベル、ブルース・ダーン、ロバート・フォスター、ジェイミー・フォックス、サミュエル・L・ジャクソン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ダイアン・クルーガー、ルーシー・リュー、マイケル・マドセン、イーライ・ロス、ティム・ロス、カート・ラッセル、クリストフ・ヴァルツ
配給:ショウゲート
© 2019 Wood Entertainment
2023年8月11日(金・祝) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
公式サイト qt-movie.jp