Nov 02, 2023 column

「PLUTO」アトムの童がつなげる未来へのメッセージ

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アニメだからわかること

アニメシリーズ「PLUTO」は、制作プロデュースをジェンコが、アニメーション制作をスタジオM2が担当している。エグゼクティブプロデューサーには真木太郎、丸山正雄が名を連ねる。真木太郎はジェンコを創設以降、プロデューサーとして25年にわたり日本のアニメビジネス全体を牽引してきてきた人物だ。

丸山正雄は、かつて手塚治虫が設立した虫プロダクションにてキャリアをスタートさせ、その後マッド・ハウス(「ワンパンマン」「ちはやふる」)やMAPPA(「呪術廻戦」「坂道のアポロン」)など業界屈指のスタジオを設立し、これまでの浦沢直樹原作のアニメ化作品のプロデューサーを務めてきた。

そんな本作は、原作マンガにすこぶる忠実だ。
オープニングでは、単行本の本体表紙にあるアメコミ風のイラストをマーベル作品のように流しており、浦沢が手塚にしたように、原作へのリスペクトが伺える。

シリーズは単行本1巻分が1話60分、全8話構成となっており、これが非常にバランスがいい。またCGを多用し過ぎていない、高い作画クオリティも相まって、原作どおりにアニメーションにするための熱意と苦労が感じられる。

また改めてアニメで観ると「PLUTO」は映画的であることが分かり、作品のメッセージ性がより明確になっている。

もちろん、ゲジヒト役に『007』シリーズや映画『ナイブズ・アウト』シリーズで好演を博したダニエル・クレイグの声を担当している藤真秀など、多くの名俳優の洋画吹き替えを担当している豪華キャストがそろっているのもその要因のひとつ。

オリジナルキャラクターである、人間を殺したロボット・ブラウ1589(CV・田中秀幸)とゲジヒトの対話は『羊たちの沈黙』のクラリスとレクター博士を思わせるし、ゲジヒトが自らの罪に苛まれていく様は『セブン』的でもある。

なにより10月26日に配信された第1話に登場する、盲目の音楽家ポール・ダンカン(CV・羽佐間道夫)と執事として仕えるノース2号(CV・山寺宏一)のやりとりは、偏屈な老人とロボットが次第に心を通わせる1本のヒューマンドラマのようだ。

登場キャラクター2人の演技も素晴らしいが、この話に引きつけられるのは、老人の思い出の中にある美しい風景と音楽がアニメーションで表現され、より立体的に伝わってくるからだ。ちなみにこのエピソードで登場する「母の口ずさむ歌」「ダンカンのピアノ曲」の作曲者は浦沢直樹。連載当時、曲になっていないと絵に起こせないと、大まかなイメージがあったものを整え、デモ音源として丸山プロデューサーに送ったそうだ。

今後のエピソードで、視聴者はロボットと人間の境界線が曖昧になっていくのを感じるだろう。子どもを育て、自然を愛し、ときに嘘をつき、涙を流す。

そしてロボットは夢を見る、記憶データを消去しない限り悪夢にうなされ続ける。ロボットも戦争によってPTSDを発症する。こういったエモーショナルな部分がダイレクトに伝わってくるのはアニメならではだろう。

「ロボットを人間に近づけないほうがいい」と天馬博士は言う。ただ、本作ではロボットたちが痛みを分かち合い、感情を共有する。電子頭脳が感情を知ったとき、つまりテクノロジーではなくスピリチュアルな面で進化するのであれば、それは人間と何が違うのか。

「PLUTO」は、連載当時ニュースをにぎわせていたイラク戦争を反映したものとなっている。「史上最大のロボット」連載時にはベトナム戦争、キューバ危機が起きた。手塚治虫は「僕のマンガはだいたいが命が関係している」と言っていた。20年前、60年前の話が、今も通用してしまう世の中、憎しみではなく相互理解こそが必要だ。「PLUTO」は、そんな当たり前のことを気づかせてくれるアニメでもある。

文 / 小倉靖史

作品情報
Netflixシリーズ「PLUTO」

人間とロボットが共生する時代。強大なロボットが次々に破壊される事件が起きる。調査を担当したユーロポールの刑事ロボット・ゲジヒトは犯人の標的が大量破壊兵器となりうる、自分を含めた7人の世界最高水準のロボットだと確信する。時を同じくしてロボット法に関わる要人が次々と犠牲となる殺人事件が発生。ロボットは人間を傷つけることはできないにも関わらず、殺人現場には人間の痕跡が全く残っていなかった。2つの事件の謎を追うゲジヒトは、標的の1人であり、世界最高の人工知能を持つロボット・アトムのもとを訪れる。「君を見ていると、人間かロボットか識別システムが誤作動を起こしそうになる。」まるで本物の人間のように感情を表現するアトムと出会い、ゲジヒトにも変化が起きていく。そして事件を追う2人は世界を破滅へと導く史上最悪の“憎しみの存在”にたどり着くのだった‥‥。

監督:河口俊夫

クリエイティブアドバイザー:浦沢直樹

原作:「PLUTO」浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース 監修/手塚眞 協力/手塚プロダクション(小学館 ビッグコミックス刊)

出演:藤真秀、日笠陽子、鈴木みのり、安元洋貴、山寺宏一、木内秀信、小山力也、宮野真守、関俊彦、古川登志夫、津田英三、朴璐美、羽佐間道夫、山路和弘、田中秀幸

Netflixにて独占配信中

公式サイト pluto-anime.com