Feb 27, 2018 column

【追悼】現場を愛し、人々に愛された名優・大杉漣さんの早すぎるエンドロール

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数多くの作品に出演した大杉さんだが、作品ごとに共演者やスタッフにとって印象深いエピソードを残している。助演で光る大杉さんには珍しい主演映画『ネコナデ』(08年)では共演したスコティッシュフォールドの子猫トラに情が湧き、撮影終了後にはトラを引き取って映画同様に一緒に暮らし始めた。以来すっかり愛猫家となり、自身のブログには成長した大杉トラが度々登場するようになった。

新潟で開かれた「大杉漣オールナイト」では地元の高校生からオファーを受け、総製作費40万円の自主映画『黒いカナリア』(00年)にも出演している。作品の規模や出演料は関係なく、「自分がおもしろいと感じる作品を選ぶ」というのが大杉さんのスタンスだった。2000年のロッテルダム映画祭では出品された日本映画10本のうち5本に、大杉さんはそれぞれ違った役で出演し、欧州の映画ファンは「レン・オオスギは何人いるんだ?」と驚いたという。

周防正行監督のデビュー作『変態家族 兄貴の嫁さん』(84年)には劇団員時代に出演している。『変態家族』はピンク映画ながら小津安二郎作品へのオマージュを捧げた内容となっており、大杉さんは32歳の若さで笠智衆を思わせる老人役を演じてみせた。大杉さんはファンからサイン色紙を渡されると「あるがままに」とペンを走らせたが、この言葉は笠智衆の座右の銘「あるがままに」に習ってのものだった。脇役人生を貫いて名優となった笠智衆を、大杉さんは大きな目標にしていた。

また、サッカーの大ファンとしても知られた。高校時代はサッカー部に所属、地元「徳島ヴォルティス」の熱心なサポーターでもあり、スタジアムの客席には撮影の合間を縫ってサポーターのひとりとして応援する大杉さんの姿があった。ヴォルティスの選手と一部のサポーターが対戦チームのボールボーイとの間にトラブルを生じた際には、「チームやサポーターの元気がないときに何か手助けができないか」とその後のホームでの試合に花束贈呈者として登壇し、スタジアムの雰囲気を和ませた。ヴォルティス以外の選手やサポーターたちも、大杉さんの純粋にサッカーを愛する人柄に敬意を払った。

それにしても、あまりにも唐突なお別れだった。SF大作『シン・ゴジラ』(16年)では人命救助を第一に考える総理大臣を演じ、二階堂ふみが主演した官能作『蜜のあわれ』(16年)では室生犀星をモデルにした老作家に扮するなど、これからますます渋みを増し、人生の哀歓をにじませた役を自然に演じられる年代に向かっていた矢先だっただけに、とても惜しまれる。

映画俳優としてのブレイク作『ソナチネ』に出演した際、北野監督から完成台本を渡されることはなく、「いつか死ぬから」とだけ教えられ、その日その日の1シーンを即興で演じることを求め続けられた。事前に演技プランを練ることはできず、カメラの前で自分の持っているものをさらけ出すしかなかった。あるがままに毎日を生きた。『ソナチネ』を撮り終わった後も、そんな生き方がずっと続いた。そして、現場で苦労を共にした共演者たちに最期を看取られ、変化に満ちた生涯を終えた。

自分のことを「24時間俳優」と称し、一つひとつの現場を自分の居場所と定め、作品世界の中に溶け込んでみせた大杉さん。そのエンドロールはあまりにも早すぎた。

文/長野辰次

 

作品情報

 

『アウトレイジ 最終章』

ブルーレイ:4800円(税抜) DVD:3800円(税抜)
スペシャルエディション ブルーレイ:7000円(税抜)
スペシャルエディション DVD:6000円(税抜)
2018年4月24日(火)発売
発売元・販売元:バンダイビジュアル
※R15+
©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会