May 31, 2018 column

「人類の未来」と「キャラクターコンテンツの未来」アニメ『GODZILLA』シリーズが挑む巨大な戦い

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このような全く新しい、もしくは意外とも言えるアプローチの作品は、その企画にも興味が行く。ビジネスの世界にいる人などは、むしろそこを考えていくことに面白味を感じる方もいるかもしれない。 「ナゼ実写ではないのか?」という問にこの作品はアニメである利点を活かしたことで答を見せた。実写で再現するのはとてつもなく難しい映像やアクションはもちろんだが、複雑なストーリーを巧みに編み上げ、高い年齢層をターゲットにした作品とするのは日本のアニメの得意分野だ。『ゴジラ』ではなく、新たな『GODZILLA』を作り出す。それがこのアニメ『GODZILLA』という企画の最大のポイントだろう。

東宝は観客動員減を理由に、2004年の『ゴジラ FINAL WARS』以後、10年間にもわたって新作『ゴジラ』映画の製作を行っていなかった。 転換点となったのは、その休止中に海外にキャラクター使用権を付与して製作されたハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』(14)の大ヒットだったそうだ。これを機に東宝社内で『ゴジラ』復活の気運が高まり「ゴジラ戦略会議」が設立されたという。この結果生まれた作品の1つが実写版の『シン・ゴジラ』(16)であり、もう1つがこのアニメ版となる。 3.11以降のリアリズムを反映させて観客を驚かせた『シン・ゴジラ』。そしてアニメ版。「戦略会議」という名が表しているように、近年の『ゴジラ』作品は企画面も作品内容も、ターゲット層も、手法も。あらゆる要素が、定型化してしまっていた平成『ゴジラ』作品像のイメージを打ち砕いている。アニメ『GODZILLA』でも、アニメであること、CGであること、シリーズ作品であること。全てがその「固定観念をどう破壊するのか?」という挑戦だ。

本アニメシリーズにおけるゴジラのデザインは、生物的であった従来のものとは異なり“巨大な神木”をモチーフにしたという。世界に君臨する絶対的な存在は神にも等しい。それに挑み、あがき、勝利を目指す人類の姿は、そのまま映画界において神格化した『ゴジラ』作品という巨木と、そこに新たに挑む製作者たちの姿そのままに重なる。 従来の定型パターンこそが『ゴジラ』だとする旧来ファンには眉をしかめる向きもあるかもしれないのだが、しかしこれら全てが「今後の『ゴジラ』をどうするのか?」ということへの挑戦であり、コンテンツの生存戦略と戦いそのものだ。長らくシリーズが続いてきた人気作品の多くがぶつかる「どうやって新規の客をつかむのか?」「どうやってパターン化した袋小路を脱し、新たな作品を生み出すのか?」という課題。それを打破しなければ『ゴジラ』の未来は無い。

アニメであること。それが3DCGであることにはその他にも「世界マーケットにどう売っていくのか?」ということへの意味もある。クールジャパン戦略とは行政からよく出る言葉だが、実際は進んでいるとは言いがたいし、効果を生んでいるとも言いがたい。ハリウッド版が「2020年公開予定の3作目では『髑髏島の巨神』のキングコングと戦うよ!」というアナウンスまでしているスピード感と企画力の中、このままでは本家の『ゴジラ』が取り残されてしまう。 第1章が公開された昨年12月に、NHK BSでこのアニメ『GODZILLA』の制作裏を取材したドキュメント『BS1スペシャル ゴジラを進化させよ! ~ニッポン・アニメ 世界への挑戦~』が放送された。この中ではクリエイターや識者、東宝サイドによる危機意識や戦略への考え方が語られており、面白い番組だった。海外のアニメ展示会で圧倒的に勢力を広げている中国アニメ。反面、海外販売戦略の下手さと弱さを指摘される日本。この番組で静野監督が語っていた「日本のアニメは流れているが日本で作られていると認知されていない。東洋風のアニメはすべて中国で作られていると思われている」という言葉は衝撃的だった。 東宝は過去にも世界市場への進出を挑んだものの、結局は縮小するといった結果となっている。かといって現状のままでいるわけもいかない。世界市場を見据えたとき、それでもアニメの輸出市場が伸びている(だが東宝はそれもそう長くは続かないと見ている)今の時期のうちにこそ打って出なければならない戦いであり、そのための“『ゴジラ』をアニメで作る”であると。 当然ながら実写版の製作を止めたわけではない。インタビューなどを読むと、今後新たな実写の『ゴジラ』作品の製作も予定されているそうだ。東宝の挑んだ『ゴジラ』戦略がどのようなことになり、どのような『ゴジラ』新時代を開いていくのかにも興味が尽きない。 このアニメ版『GODZILLA』が挑んでいる敵は、作品の中(物語)も外(世界市場)も、あまりに巨大だ。でも、そういう巨大な戦いに挑む物語は、みんな大好きだろう。僕は大好きだ。

余談となるが、本作はアニメ映画版公開に合わせ、これまでに『GODZILLA 怪獣黙示録』と『GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』の2冊の小説版が刊行されている。だがこれはたんなる映画のノベライズではない。どちらも映画第1章の前日譚。怪獣が現れてからの人類の戦いと敗北の歴史をドキュメンタリータッチで描いているかなり異色の小説版で、これ自体がかなり楽しめる作品だ。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)