ただの続編ではなく、テーマ性をさらにアップデートしてきた続編である。
人間であること、生きていることへのテーマを肉体性に希求していた前作をさらに突き詰め、記憶や思い出といった精神性や観念も含めてがアイデンティティーの拠り所であり、人間性を組み上げる証そのものであることに向かっている。 それを探っていく物語の運び方も見事だ。主人公“K”が謎を追う中で新たにわかる事実。それを追うことでさらなるものが見えていく。前作のハードボイルドミステリー調の部分を明確に引き継ぎ、SF作品としてだけではなくミステリー映画としても一級品だ。映像的にもリドリー・スコットとは異なる…それでいて前作が築いた世界観を壊さないギリギリのバランスで、ヴィルヌーヴ監督独自の“未来社会観”“現在への視点”がハッキリと描かれている。
現実のテクノロジーが大きく変化した以上、35年前と2017年では近未来に対する想像力も大きく変わる。何をどうすることであの1作目の世界の35年後となるのか。進歩した科学技術が人間にどのような影響を与え、そのことがどのような物語を生み、それがどこに着地するのか。この未来社会観のアップデートは本当に見事だ。
2時間45分という長尺にもかかわらず、見ている間に退屈するようなことはまるでない。 もしこれから見に行くつもりの人で、前作『ブレードランナー』は「見たことがない」「昔に見たことはあるが、かなりウロ覚え程度」という人は、ちょっと面倒かもしれないが前作を見ておく(もしくは復習しておく)ことをオススメしたい。ほんとにそれくらい見事な“続編”なのだ。その手間をさく価値はあるし、それを惜しんでこの映画の感動の全てを味わえないことはあまりにももったいない。加えて、前作を知っていれば最後には号泣することになると思う。 (バージョン違いがいくつもある『ブレラン』1作目だが、そういう目的で今からどれか1本を見るなら、とりあえず『ファイナル・カット版』でいいと思う) まあ、1作目はほんとにSF映画史どころか映画史そのものに輝くまさにエポックな作品なので、いずれにしても見て損はないだろう。この映画を見ておけば、その影響が生み出した幾多の映画やアニメやコミックやゲームへの見方も変わるはずだ。1本の映画が多くのカルチャーへの新たな窓や視点を開いてくれる。
今年は春にハリウッドによる実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』も公開された。原作である士郎正宗のコミック『攻殻機動隊』が『ブレードランナー』の影響が生んだ“子”のようなものであったとするなら、それをアニメ化した押井守のアニメ版は“孫”であり、そこから生まれた実写版は“曾孫”となる。その同じ年に“親”の正当な続編が公開されたことは、何かそこに不思議な因縁めいたものを感じてしまう。 『2049』を見ていて感じたのは、この続編そのものも35年間で生まれたそういった子や孫や曾孫たちの影響をどこかしら受けているということだ。それはもはや “概念の環流”とでも言うべきことかもしれない。35年前に『ブレラン』が生んだ衝撃は、続いてきたのではなく広がってきたのだ。こうやって感情や感動が多くの根を広げて繋がっていくことこそ、映画や小説といった創作物がなぜ作り続けられるのか?なぜ僕らを惹きつけ続けるのか?への答の1つであり、最大の理由なのだろう。創造の遺伝子の継承であり、遺伝子を受け継ぐ種の繁殖だ。まるで映画が生物のようではないか。
しかし、多くの人らが散々言っていることだけれど、今年は劇場公開の新作ラインナップが『キングコング』『エイリアン』『ブレードランナー』『猿の惑星』『スターウォーズ』って…。今が何年なのか本当にわからなくなるなあ(笑)。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)
映画『ブレードランナー 2049』
(STORY) 舞台は2049年、貧困と病気が蔓延するカリフォルニア。人間と見分けのつかない人造人間“レプリカント”は、労働力として生産され、人間社会と危うい共存関係にあった。ロサンゼルス市警のブレードランナー“K”(ライアン・ゴズリング)は、人類への反乱を目論み、社会に紛れ込んでいる違法な旧レプリカントの“処分”任務にあたっていた。そんな最中、Kはレプリカント開発に力を注ぐ科学者ウォレス(ジャレッド・レト)の陰謀を知る。そして、人類存亡に関わるその陰謀を暴く鍵となる一人の男の存在にたどり着く。その男こそ、30年前に恋人の女性レプリカントと共に姿を消したかつてのブレードランナー、デッカード(ハリソン・フォード)だった。 彼が命をかけて守り続けた“秘密”とは何なのか? 30年の時を経て“衝撃の真実”が明らかになる。
製作総指揮:リドリー・スコット 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、ロビン・ライト、ジャレッド・レト、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス、カーラ・ジュリ、マッケンジー・デイヴィス、バーカッド・アブディ、デイヴ・バウティスタ 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 2017年10月27日(金)公開 公式サイト:http://www.bladerunner2049.jp/
日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ(3枚組):5990円(税抜) 発売中 発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」フィリップ・K・ディック(著) 浅倉久志(訳)/早川書房