そして35年を経て、続編『ブレードランナー2049』が公開となった。
実は『ブレードランナー』の続編製作というのはこの30年以上、何度も聞こえては消えを繰り返していた話だ。90年代にはK・W・ジーターによる小説『ブレードランナー2』が発売され「いよいよか」とも思われたのが、これは映画続編製作始動に連なるものではなかった。ちなみにジーターの小説はディックの原作小説の続編ではなく、映画の続きを描いた小説になる。ファンには有名な1作目の制作過程で生じたミスである“語られているのに登場しない6人目のレプリカント”を巡る物語となっている。 その間にメディアフォーマットが変わるたびに発売される映像ソフト。新たに発掘された資料をもとにした関連書籍。しかしそれでも新たな資料や映像特典、リマスターされた美麗な映像を求め、僕らは出費を続けてきたのだ。定期的に発生するこの買い直しを「『ブレラン』税の徴収」と言った人がいるが、まさにそんな気分であり続けた。「え?!幻のワークプリントが見つかって収録されている?!」となれば高額なボックスだって買いましたよ…。デッカードが食べている丼の中身が判明しただけで驚喜したのが僕らなのだ。おかげでいったい、僕らの部屋には何枚の『ブレラン』映像ソフトがあるのやら…。
続編『2049』公開に年配の映画ファン、SFファン、オタク層がやけに騒然としていることに不思議なものを感じている人もいるかもしれないのだが、こういったような歴史と年配オタク特有のめんどくさい背景がある。前記のように「僕らが接してきた、僕らが大好きな幾多の作品に多大な影響を与えた原点」であり、ある意味80年代オタクにとっては“基礎教養”とすら言えた作品。その続編の登場に騒ぐなという方がムリだ。
発表があったときから不安混じりの期待感。しかし1年前に発表された1stトレーラーを見た瞬間、その混じっていた不安が吹き飛んだ。長年、同作に対してはネガティブな発言も多かったハリソン・フォードの再登場。しかもデッカードが“あの”ブラスター(銃)を持っている! リドリー・スコットが監督を降りて製作にまわり、監督がドゥニ・ヴィルヌーヴに変わったが、その懸念も先駆けて春に公開された同監督のSF映画『メッセージ』によって一気に吹き飛んだ。SF小説の名作『あなたの人生の物語』の映画化であった『メッセージ』は、とかく口うるさいSFファンからも高い評価を受け、『ブレラン2049』への期待感を盛り上げることに繋がった。
僕も初日に劇場に向かった。上映前のシートに座りながら、大げさでなく、この35年間が脳裏に去来する。そして見終えて真っ先に思ったのが「オレたちは35年近くも『ブレラン』税を払い続けてきた甲斐があった!」だ。そう思える、まさに見事な続編だった。