Oct 30, 2017 column

ああ、僕たちの35年間!『ブレードランナー2049』が受け継ぐ創造の遺伝子

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ああ、僕たちが35年間、LDだDVDだblu-rayだ、ディレクターズカットだ、ファイナル・カットだ、4Kニューマスターだと、新たなパッケージ商品が出るたびに「またかよ!」と思いつつもソフトを買い続けてきた、もはや“ブレラン税”とも言えるファン出費…。その果てに、まさか続編映画を目にする日が来るなど、いったい誰が想像できたろう。

映画『ブレードランナー』が公開されたのは1982年、僕は中学生だった。劇場のシートに埋もれながら、この35年間が脳裏に去来したオールドファンは決して少なくないはずだ。その続編『ブレードランナー2049』がついに公開された。

『ブレードランナー』についてはもはや多くの説明の必要は必要無いだろう。フィリップ・K・ディックによるSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作としたこの作品はSF映画の金字塔と呼ばれ、歴代SF映画のベスト作品の上位として挙げられる名作。 舞台は2019年の近未来。酸性雨が降りしきるロスを舞台に、反乱を起こした労働用人造人間・レプリカントを追う特別捜査官デッカードの活躍をハードボイルドミステリータッチで描いた。人間とは何か、生きることの意味は何か…。哲学的で深遠なテーマ、シド・ミードによる未来デザインやダグラス・トランブルによるため息が出るほど美しいVFX。それらが生み出した退廃的でデッドテックな未来社会観そのものがSFファン、映画ファンをノックアウトした。ファンだけではなく、原作者のディックすらも大きな衝撃を受けたことが、当時の書簡で綴られている。 初公開時には不入りであったことは今や伝説だが(地方では早々に打ち切られたために、初公開では劇場で見られなかった人も多い)、この作品がどれだけの意味を持った作品であったのかは、その後の高い評価や多大な影響を考えればわかるだろう。

古い映画だなんてとんでもない。10年前にトランブルが撮影で用いた70mmフィルムの特撮映像に差し替えた『ファイナル・カット版』が4Kリマスター上映をされたが、その年に見た中でどんな最新の映像技術を使った作品よりも衝撃的で美しい映像の映画であったことに大きなショックを受けた。アナログからCGへとVFX技術が変化してきた中、しかしそれでも30年間この映画はまったく色褪せることなく、そのビジュアルショックを誰も超えることが出来なかった。 現実の科学技術の進歩やそれに向き合う僕らの精神的なスタンスそのものをビジュアルで築き上げる。その作られたものが生み出すフィクションを超えた圧倒的な現実感。その現実感を生み出すにはどうすればいいのか? そういう意味では『ブレードランナー』はもはや「クリエイティブ」ではなく「発明」に近かったのかもしれない。その発明とはすなわち“未来観”、“未来を描き出すビジュアル観”の発明だ。

『ブレードランナー』のこの発明がもたらしたショックはその後の世界中のサブカルチャーに多大な影響と足跡を残している。

SF界ではウィリアム・ギブスンによる小説『ニューロマンサー』を筆頭にしたサイバーパンクムーブメントが起こった80年代、この映画はそのサイバーパンクにおけるビジュアルを象徴するものとなり、後のSF映画はもちろん、日本のコミックやアニメやゲームにとてつもなく巨大な影響を与えた。当時のその代表格とも言えるものが大友克洋の『AKIRA』であり、士郎正宗の『攻殻機動隊』。他にも麻宮騎亜によるコミック『サイレントメビウス』に、小島秀夫による初期のゲーム『スナッチャー』。時代が流れた近年でもアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』等々…と挙げだしたらキリがない。 今の視点では退廃した未来社会観にエポック性も目新しさも感じない人がいるかもしれない。しかしその“いまでは珍しくない未来社会観”全ての原点がこの映画だったのだ。