一方で、劇場版ならではの追加された見せ場も大きい。最大のものはTVシリーズでは大胆にもざっくりと省略した全国大会における演奏シーンだ。この劇場版ではその“幻の全国大会シーン”をフルに描いている。どうやらTVでの関西大会の画もうまく使い構成しているようなのだが、もともと演奏シーンの緻密な表現に賞賛があったこのアニメ。その緻密な演奏の映像に、前劇場版同様に劇場用にチューンをした音がプラスされたクライマックスは最大の見せ場となり、それだけでも劇場で見るに十分な理由となっている。TVで見ていたときには感じなかった「あ、こういう音だったのか」という体験だ。
上映後には来年公開予定の『リズと青い鳥』の告知が流れる。
これは『響け!ユーフォニアム』のサブキャラクターである、みぞれと希美を中心としたスピンオフ的な作品となるようなのだが、昨年の劇場アニメ『聲の形』が絶賛された山田尚子監督の新作となることもあり早くも注目が集まっている。 さらにその後には2年生に進級した久美子たちの物語を描く完全新作の劇場長編が予定されており、そこでどのような成長ドラマが生まれていくのかが楽しみだ。
構成に面白さを感じた2つの作品。同じ画を使いながら、セリフや音(音楽・音響)を変えることで新たなドラマや物語を生み出すというのは、この2作に限らずアニメ作品ではたびたび行われる手法だ。同じ画を使うことには制作のコストダウンと側面もあるだろうが、しかしこれは、おそらくアニメーションだからこそ出来る手法でもある。(実写作品でセリフを吹き替えたら口の動きと合わないので違和感しか生まれない)
物語・編集・音楽。それらの構成によって作品が伝えてくるものは全く変わる。それが変われば見る側が受ける感動も変わるのだ。とっくにわかっていたつもりのことだったが、こうも見事にそれを形として見せられると、改めて構成というものの面白さを考えさせられる。人の感情を動かす手品は、なんとも奥が深い。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)