そしてもう1本の驚いた作品が『劇場版 響け!ユーフォニアム ~届けたいメロディ~』。
『響け!ユーフォニアム』は『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』などを手がけてきた京都アニメーション制作のTVアニメで、第1期13話が2015年に。第2期13話が2016年に放送された。(ちなみに、TV第1期はこの10月よりNHK BSプレミアムで放送が開始されているので、未見の人にはそれもお勧めしたい)
京都の高校を舞台に、それほど上手くもなく熱心でもなかった吹奏楽部が、あらたな指導者のもと全国大会を目指していく物語。その中で部員たちの吹奏楽への想いや人間関係、様々な悩みや友情といった群像劇が描かれていく、王道と言ってもいい青春部活ものだ。
TVシリーズ放送時にはアニメファンのみならず、作中の幾多の描写が吹奏楽部経験者から「あるある!」という共感と賞賛を受けた本作。吹奏楽器は複雑な形状で、ただでさえアニメで描くには難しい。さらにそれを演奏する動きを描くとなるとなおさらだ。しかしクライマックスの吹奏公演シーンはゾクッとくるほどの素晴らしい映像で、アニメでここまで見事に描けるのかと驚かされた。
今作は劇場版としては2作目で、劇場版1作目がTV第1期の総集編だったのと同じく、こちらもTV第2期の総集編である。
だが、この作品はただの総集編にはなっていない。総集編というとダイジェストのようになってしまう作品は多いが、この作品にはそういったダイジェストぽさはまるでない。
劇場版1作目も“部活もの”としてのまとめかたが見事だったのだが、今作は1年生の主人公・久美子と、彼女と同じユーフォニアム奏者である3年生の先輩・あすかの2人の物語に焦点を当てた、まとめかたとなっている。
TVシリーズではそれ以外にもさまざまなエピソードや人間ドラマが交錯していくのだが、この2人に絞った抽出の仕方と再構成があまりにも上手く、見事なまでの2時間の劇場用長編作品となっている。
久美子の視点で描かれていくあすかの悩み、葛藤。同時に起こる久美子の姉の進路を巡る葛藤。大人から見ればわずか数歳の年齢差だが、1年生の久美子から見ればあすかも姉も“自分の将来”にいる存在だ。そこにいるのは未来の彼女であるのかも知れない。先輩や姉たちの姿を見ていく中で「なぜユーフォニアムに惹かれたのか」「なぜ吹奏楽に惹かれたのか」「自分はどういう人になっていきたいのか」を考え、成長していく姿が描かれる。
群像劇の中からその部分だけを一点突破的にまとめあげたその構成は、TVシリーズを見ていた人であっても全く印象が異なる作品となっている。TVシリーズの群像劇が残したものが部活物としての感動であったのに対し、こちらは青春期の成長物語の感動だ。よりセンシティブとなったドラマでは、TVシリーズでは感じなかったシーンでも心が振るわさせられる。正直に書くと、クライマックスではかなり涙腺が緩んでしまった。(隣の席にいた女性客はボロ泣きしていたほどだった)
同じ画、ストーリーの大きな流れも同じだ。だが、ドラマ性そのものがまったく別の物となっている。構成の仕方でドラマはこうも変わるのか。印象はこうも変わるのか。おそらくTVシリーズを見ていた人こそ驚くかも知れないし、未見であった人には1本の青春ドラマとしての感動がある。