Jul 05, 2017 column

人生の節目に沁みる、春期のアニメ作品

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都会での就活に失敗し、目先の仕事としてとある田舎の小さな町の観光大使として1年間働くことになる女の子・由乃の物語だ。彼女は舞台となる間野山町でそれぞれに事情を持つ女性らと共に町興しに奮闘することとなる。

このアニメは制作のP.A.WORKSがこれまでに手がけてきた『花咲くいろは』『SHIROBAKO』に続く「お仕事シリーズ」と銘打ったオリジナル企画の第3弾。お仕事シリーズはこれまでの2作で「地方の旅館」「アニメ制作会社」を舞台としてきたが、今回の舞台は地方の小さな町であり、仕事の目的は「地域再生」。 シャッター通りとなった町の商店街、若者も減り、観光の目玉はかつての地方創生事業の中で作られた「チュパカブラ王国」というミニ独立国ブームの名残だけ。舞台である間野山町の姿は現在の日本の地方の至る所にあるものと同じだ。 今作があえてどの県にあるのかも設定せず架空の町を舞台としているのも、日本各地のどこにでもある現状だからだろう。

由乃が出すアイデアは実を結ばない。彼女なりにまじめに考えてはいる。だから視聴者ははじめ非協力的な町の人々に不満を感じる。だが、彼女が(そして視聴者である僕らも)町のことを何も知らないことに気づかされていく。何も知らないヨソ者の思いつきが上手くいくわけもないのだ。 作品の作り手は由乃たち登場人物を甘やかさず、ご都合主義的な成功を彼女たちに与えようとしていない。パッと見はのんきな作風に見える中で、現実の各地で見かける“町興しの失敗策”のような題材も取り入れ、地方再生がナゼ難しいのか?簡単なアイデアでは上手くいかないのか?をきちんと描いているのもポイントだ。 さらにこのアニメではいくつもの“仕事”を描いているのも面白い部分だ。これまでの「お仕事シリーズ」はその職業についてだけであったが、今作では町興しのための活動を通し、その他の仕事にも接していくこととなっている。伝統工芸師、フィルムコミッションのような活動を通しての映画制作。音楽イベントなどなど。それだけで完結している仕事など無い。ほとんどの仕事は他の仕事と繋がることで成り立っている。

制作しているP.A.WORKSは富山県を拠点としており、これまでには富山などの実在する地方を舞台とした作品も多い。作品によってはいわゆる聖地巡礼の観光客を呼び込んだことなども話題になってきた。過疎化する地方とそこでの振興とは何なのか?に接し続けてきた同社ならではの作品であるかもしれない。

『リトルウィッチアカデミア』のアッコは「何も出来ない新人」だった。彼女にとって武器となる物は決してあきらめようとしない情熱だけだ。 『サクラクエスト』の由乃たちは、やる気はあり、少しづつ前に進んではいる。しかしシリーズ半ばのいまの展開では、それだけではどうにもならないことも描いている。いったいこの先に由乃たちが何に気づかされ、どのような展開を見せるのか楽しみだ。先の展開が見えないのはオリジナル作品最大の魅力でもある。