戦車模型だけではない。13年からサービスが開始し大人気となったブラウザゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』の登場によって、モチーフになっている戦艦の模型までもが売れ始めた。
『艦これ』は別に戦艦そのものが登場するわけではない。“艦娘(かんむす)”と呼ばれる美少女キャラクターたちのデザインは、あくまで「かつての戦艦をモチーフに、美少女擬人化されたもの」だ。彼女たちの立体物がほしいのであればフィギュアという選択肢もある。 なのに、モデルとなった戦艦のキットにも興味を持つ人が現れた。 そして、戦艦模型には追い風が続いた。同年には古い戦艦の形をしたメカが登場する3DCGのSFアニメ『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』が放送開始され、16年にはこれまた世界のほとんどが海に沈んだ世界を舞台に女子高生が戦艦を駆る『ハイスクール・フリート』が放送。流れの中で艦船模型という分野が一気に元気になっていく。
この思いがけぬスケールモデル好景気では、変わった方法で商品リリースがされている。
『ガールズ&パンツァー』のライセンスを受け、作品の商品として販売している主なメーカーはPLATZとファインモールドというメーカーで、このPLATZが中心となり「ガールズ&パンツァー登場全戦車キット化プロジェクト」というのが行われている。言葉通り、作品中に登場する戦車を全部キットで出そうというものだ。
戦車であれば以前より発売されていたキットは多数ある。が、ここで難題となるのが「同じ車体の既存キットと作中での差異」と「車体マーキング」だ。差異というのは、戦車は同じ車体でも製造時期や使われていた地域などによって細かい違いがある。マーキングは作中の各高校の車体に描かれているもので、主人公たちの学校は大洗にあるため「あんこう」のマークが描かれている。当然ながら従来の戦車キットにはそんなシールは付いていない。そこでこのプロジェクトではドラゴンモデルといった海外メーカーや、タミヤなど、いくつかの模型メーカーが発売してきたキットの供給を受け、そこに新造した差異のあるパーツと、各マーキングをセットにし『ガルパン』仕様のキットとしている。 同時に、他メーカーから販売されていた既存キットを『ガルパン』仕様に改造し組みたい人のためにマーキングシールだけも販売されているので、他メーカーの戦車キットも効果の好影響を受けている。
戦艦のキットも同様だ。『艦隊これくしょん』のライセンスを受け商品として販売しているのはアオシマになる。ここではかつてより同社がタミヤ、ハセガワと組んで展開している『ウォーターラインシリーズ』という模型シリーズが活きている。ウォーターライン(WL)シリーズは1/700スケールで喫水線の上のみを模型化している艦船模型シリーズ。古くからあり、前述の3社が分担して展開している。 もちろん、それぞれの商品はそれぞれのメーカーから販売されているが、『艦これ』仕様商品はタミヤやハセガワから販売されているものもコラボとして供給を受け、そこに“艦娘”の描かれたエッチングプレートなどのボーナスパーツを同梱し、『艦これ』パッケージのキットとしている。(注:ただし全てがWLシリーズではなく、商品によっては喫水線の下も造形し、船体全体を再現した“フルハルモデル”として出ている物もある)
「ん?」とお気づきになった方もいるかもしれないが、『ガルパン』と異なり『艦これ』では実際に艦船が登場するわけではない。なので、このボーナス要素を問わなければ既存の艦船キットでも構わないわけで、結果『艦これ』仕様を中心に艦船模型の市場全体にプラス効果が働いている。