去る5月に第56回静岡ホビーショーが開催された。ホビー系の話題を扱うニュースサイトなどでも多くの記事が掲載されていたので、目にした方もいるのではないかと思う。 バンダイの「ガンプラ」といったキャラクターモデルだけでなく、スケールモデルの新商品も数多く発表され、モデラーにとっては続報が楽しみな発表も多かった。
模型に詳しくない方に説明すると、スケールモデルというのは戦車や自動車、艦船に飛行機などの実際に存在している物を縮尺した模型のこと。対して『ガンダム』のプラモであるガンプラのようなアニメなどに登場する架空のロボットやメカを扱ったものはキャラクターモデルと呼ばれる。
だがこの模型市場、とりわけスケールモデルの市場は、ほんの10年ほど前は真っ黒な暗雲が立ちこめていた。とにかく売れなくなってしまっていたのだ。
「売れるのはガンプラだけ」とすら言われ、大手量販店などの模型売り場もガンプラ一色であった。では、町の模型店の棚はどうであったのか?というと、従来の町の小さな模型店がこぞって消えていった時期である。売り上げの低迷は新商品の開発にも影響する。14年前、2003年の第42回静岡ホビーショーでは世界に名だたるスケールモデルメーカーの巨頭・タミヤをして、新規金型の新商品が一つも発表されないという事態まで起こった。
それほどスケールモデルは売れず、市場は危機的な状況になっていたのだ。
模型が持つ最大のハードルは「自分で組み立てなくてはならない」「その組み立てが面倒・難しそう」という点だ。特に後者は大きい(もちろん、趣味にしている人にとってはその部分こそが面白味であり楽しさであるのだが)。 危機的な状況の中で初心者を増やそうと、ハードルを下げた魅力を伝えることに苦心してきた人たちは多数いる。だがそれでもジャンル内人口の増加には結びついてこなかった。スケールモデルにとって長い冬の時代である。
が、この状況は思わぬ形で一転した。5年前に放送されたTVアニメ『ガールズ&パンツァー』(12)だ。
『ガールズ&パンツァー』(以下『ガルパン』)は、主に第二次大戦中の古い戦車を使用した模擬戦が、薙刀・華道・茶道と同様の女子の習い事“戦車道”というものとなっている設定世界で繰り広げられる、女子高戦車部の物語だ。むちゃくちゃな設定だが、主人公たちのドラマ、スポ根もののような展開。そしてなにより3DCGで細かく描かれマニア心をくすぐる戦車の動き。見所が多く大ヒット作品となった。
このアニメを見て戦車に興味を持ったアニメファンの中に、プラモデルに手を出す人らが現れたのである。言葉で書くと簡単で意外性を感じない流れに思われるかもしれない。だが、長い間どうやっても新規モデラーを呼び込むことができず、それゆえ絶滅危惧種にまでなっていたのがスケールモデルなのだ。それが1つのアニメ作品をきっかけに、そのハードルを越えてきた人が多数現れた。長年の模型ファンからすれば、ある日突然に起こった奇跡だ。長いこと模型屋の片隅でホコリをかぶっていた戦車のキットが突然売れた。