今までにない金融ドラマ、理系ドラマで高視聴率を記録し、閉塞状態にあったテレビドラマ界に大きな風穴を開けたベストセラー作家・池井戸潤とTBSドラマ部のディレクターである福澤克雄監督との名コンビ。日本古来の伝統芸能である狂言の世界から野村萬斎を招いて撮り上げた映画『七つの会議』は、空気を読むことを尊ぶ日本人のメンタリティーを揺さぶる社会派作品となっている。働く人々に熱いエールを送り続ける池井戸&福澤タッグ作の魅力を探ってみよう。
東京を壊滅に追い込んだ、あの人がキーマン
日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が報酬額を偽った容疑で逮捕されたニュースは、世界中に激震を走らせた。2017年には神戸製鋼ほか国内の有名企業がデータ改竄していた事実がドミノ式に次々と明るみとなった。日本経済を根底から揺るがすこれらの事件と呼応するかのように公開されたのが、池井戸潤原作の企業サスペンス『七つの会議』だ。企業ドラマ「半沢直樹」「ルーズヴェベルト・ゲーム」「下町ロケット」「陸王」(すべてTBS系)で池井戸とタッグを組んだ福澤監督が演出を手掛けているのも注目ポイント。テレビドラマ界で大ヒットを飛ばした強力タッグの劇場進出作として話題を集めている。
物語の発端となるのは、大企業「ゼノックス」の子会社である「東京建電」で起きたパワハラ騒ぎ。営業会議中も居眠りしている万年係長の八角(野村萬斎)のぐうたらぶりを年下の上司・坂戸課長(片岡愛之助)が叱責したところ、逆に八角からパワハラとして訴えられてしまう。営業部のエースである坂戸課長が降格人事に処せられるという不可解な裁定となるが、社内で絶対的な権力を持つ営業部長の北川(香川照之)はなぜか黙ったままだった。坂戸の後任となった原島課長(及川光博)と同じく営業一課の浜本(朝倉あき)は八角が握る謎を解き明かそうとするが……。
2012年に刊行された原作小説は中堅メーカーに勤めるサラリーマンたちの様々な視点が綴られたオムニバスものとなっていたが、映画では“居眠り八角”と呼ばれる営業部係長の八角をキーパーソンにした社会派サスペンスとして、スリリングにストーリーが展開される。テンポのいい筋運びは、数々の池井戸作品を大ヒットさせた福澤監督ならではのもの。また、ネジひとつにも職人の魂が込められているという、物づくりに対するリスペクトぶりは『七つの会議』にも強く感じられる。
香川照之、片岡愛之助、音尾琢真、朝倉あき、岡田浩暉、木下ほうか、土屋太鳳、立川談春、北大路欣也といった池井戸&福澤のタッグ作でおなじみの顔ぶれが集結。さらに本作と同じく東宝配給の『シン・ゴジラ』(16年)で東京を壊滅させたゴジラの動きをモーションキャプチャーで演じた狂言師・野村萬斎が、企業を倒産か再生かに追い込むミステリアスな主人公を演じているのも興味深い。“居眠り八角”が長い眠りから目覚め、大事件が巻き起こることになる。職場の道化・八角を演じる野村萬斎が、組織の一大事にどう変身していくかも見ものだ。