Feb 03, 2019 column

野村萬斎主演『七つの会議』公開!ドラマ界に新風を吹き込んだ池井戸&福澤タッグ作の魅力に迫る

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日本人のDNAに訴える勧善懲悪のドラマ

 

さらに多くの人を驚かせたのが、2015年のTBSによる「下町ロケット」のドラマ化だった。WOWOWで2011年にすでにドラマ化されていたが、福澤監督が現場を束ねるTBS版の放送に合わせて池井戸は「下町ロケット2」を全国紙で連載。ガウディ編と名付けられた新エピソードが加わったことで、より濃密でハイテンポな連続ドラマとなり、最終回は22.3%を記録。池井戸&福澤タッグの絆の深さと物づくりへの情熱を感じさる感動作となった。第2シリーズが2018年10月からお正月にかけて放映されたことも記憶に新しい。

 

『下町ロケット -ゴースト-/-ヤタガラス-』(完全版 Blu-ray・DVD BOX:2019年3月29日発売) ©池井戸潤「下町ロケット」/TBS

 

池井戸&福澤タッグ作の面白さは、時代劇によく例えられる。勧善懲悪的な明朗なストーリー展開は、世代を超えた多くの日本人に親しみやすいものとなっている。「下町ロケット」の藤間社長(杉良太郎)と財前部長(吉川晃司)との熱いやりとりは、まさに時代劇の主従関係を彷彿させた。時代劇に慣れ親しんだ世代には懐かしく、若い世代には新鮮なものとして感じられたようだ。狂言、歌舞伎、落語など伝統芸能畑からの俳優の起用が多いのも、池井戸&福澤タッグの特徴となっている。

映画『七つの会議』は演出的な面白さだけでなく、テーマ的にも踏み込んだ形で“現代の時代劇”となっている。封建時代の武士たちはお家(藩)を守ることを第一に考えていたわけだが、現代社会の武士であるサラリーマンも同じように企業という組織を守ることを最優先している。つまり、日本人のメンタリティーは、江戸時代の頃から、明治・大正・昭和、そして平成が終わろうとしている現在も、ほとんど変わっていないのではないのか。そんな根源的な疑問を、本作は投げ掛けてくる。

 

 

テレビドラマ界に大きな風穴を開けた池井戸&福澤タッグが、映画『七つの会議』では現代の侍であるサラリーマンたちに問い掛ける。人は何のために働くのか、そして誰のために汗を流すのかと。利潤追求、効率化を優先するあまりに硬直化しつつある現代の企業社会に対し、警鐘を鳴らし、再生するための重要なヒントを提示したドラマだと言えるだろう。同時に企業社会の中でずっと違和感を漂わせていた野村萬斎演じる八角が、まっとうな人間に思えてくるに違いない。

文/長野辰次

 

作品情報

 

『七つの会議』

中堅メーカー・東京建電の営業一課の万年係長・八角民夫(野村萬斎)は、どこの会社にもいる“ぐうたら社員”。トップセールスマンの課長・坂戸(片岡愛之助)からは怠惰ぶりを叱責されるが、ノルマも最低限しか果さず、定例の営業会議では傍観しているのみ。絶対的な存在の営業部長・北川誠(香川照之)が進める結果主義の方針の元で部員が寝る間を惜しんで働く中、一人飄々と日々を送っていた。ある日、突然社内で坂戸のパワハラ騒動が起こり、異動処分が下される。訴えた当事者は年上の部下・八角だった。北川の信頼も厚いエース・坂戸に対するパワハラ委員会の不可解な裁定に揺れる社員たち。そんな中、原島(及川光博)が新課長として着任する。会社の“顔”である一課で、成績を上げられずに場違いにすら感じる原島。だが、そこには想像を絶する秘密と闇が隠されていた……。

原作:池井戸潤「七つの会議」(集英社文庫刊)
監督:福澤克雄
脚本:丑尾健太郎 李正美
出演:野村萬斎
香川照之 及川光博 片岡愛之助
音尾琢真 藤森慎吾 朝倉あき 岡田浩暉 木下ほうか 吉田羊
土屋太鳳 小泉孝太郎 溝端淳平 春風亭昇太 立川談春 勝村政信
世良公則 鹿賀丈史 橋爪功 北大路欣也
配給:東宝
公開中
©2019映画「七つの会議」製作委員会
公式サイト:http://nanakai-movie.jp/

 

 

原作本紹介

 

「七つの会議」池井戸潤/集英社文庫刊

「下町ロケット」を始め数多くの作品が映像化されている池井戸潤による、中堅メーカーを舞台にしたクライム・ノベル。社内で起きたパラハラ騒動をきっかけに、親会社・取引先を巻き込んだ会社の秘密が暴かれていく。2013年には主演・東山紀之、共演・吉田鋼太郎のタッグで、NHKでテレビドラマ化された。

 

 

関連作品紹介

 

『下町ロケット -ゴースト-/-ヤタガラス- 完全版』

Blu-ray BOX:33600円(税抜) DVD-BOX:26600円(税抜)
2019年3月29日発売
発売元:TBS 販売元:TCエンタテインメント
©池井戸潤「下町ロケット」/TBS