May 16, 2025 column

調和か破綻か、不可能に挑戦したトム・クルーズの行き着く先とは!?『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

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「人」で魅せる、「人」を見せる映画

しかしながら『ファイナル・レコニング』は、派手なスタントとトム・クルーズを売りとする単純なショーではない。ひとつの美点は、クライマックスではキャラクターのアンサンブルに回帰することだ。『ミッション:インポッシブル』シリーズとは、クルーズを主人公にしながら、魅力的な俳優陣を見せる映画でもあったのである。

ファンにとっての喜びは、ベンジー役のサイモン・ペッグが、持ち前のコメディセンスを存分に発揮しながら大きな役目を担うことだろう。この役柄にペッグが起用されている意味を改めて感じられるはずだ。また、シリーズの全作品に出演したルーサー役のヴィング・レイムスは、これまでとは異なる役回りで映画のカギを担った。

前作から登場したグレース役のヘイリー・アトウェルは、全編にわたって新ヒロインとしての存在感を発揮。また、パリス役のポム・クレメンティエフもセリフは少ないが新たな化学反応を示す。序盤でチームに加わるドガ役のグレッグ・ターザン・デイヴィスは、『トップガン マーヴェリック』以来のクルーズの信頼を感じさせる大健闘だ。

そして特筆すべきは、(あえて言えば)この荒唐無稽な映画に説得力をもたらした名優たちである。ガブリエル役のイーサイ・モラレスはコミック的な悪役とリアルな造形を両立させ、CIA捜査官ブリッグス役のシェー・ウィガムはシリアスな怖さが光った。

映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』より

核の脅威に葛藤する大統領役にはアンジェラ・バセットの表現力が欠かせなかったし、大統領の側近たちに起用された、ホルト・マッキャラニーやマーク・ゲイティス、ニック・オファーマン、ハンナ・ワディンガムといった(海外映画・ドラマファンにはおなじみの)贅沢な顔ぶれも卓越したアンサンブルの力を見せつける。

本編が終わったあとに気づくのは、本作がつくづく「人」を見せる映画だということだ。トム・クルーズによる目を見張るアクション、共演者たちの演技、精緻な美術、圧巻の撮影――作品の隅々までがマンパワーによって作り上げられていることを、クルーズ&マッカリーの言葉を借りれば、“この映画自体が”物語っている。巨額を投じた世界規模のブロックバスター大作としては、これ以上ないほど過激な映画製作と言えるかもしれない。

偶然か必然か、重要なのはその映画が人間対AIを描いていることだ。そしてそれゆえに、やはり本作はクルーズとマッカリーの根底にある「映画」への思想を十二分に表現した作品だと確信できるのである。人間とAIの戦いに終止符を打つ決定打はなにか。それは凝ったスタントでさえなく、一瞬のワンアクション、ほんのわずかな身ぶりにすぎないのだ。


文 / 稲垣貴俊

作品情報
映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

『ミッション:インポッシブル』シリーズ最新作。

監督:クリストファー・マッカリー

出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、マリエラ・ガリガ、ヘンリー・ツェニー、ホルト・マッキャラニー、ジャネット・マクティア、ニック・オファーマン、ハンナ・ワディンガム、アンジェラ・バセット、シェー・ウィガム、グレッグ・ターザン・デイヴィス、チャールズ・パーネル、フレデリック・シュミット

配給:東和ピクチャーズ

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

2025年5月17日(土)~22日(木) 先行上映
2025年5月23日(金) 全国ロードショー

公式サイト missionimpossible