May 16, 2025 column

調和か破綻か、不可能に挑戦したトム・クルーズの行き着く先とは!?『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

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物語が消失するところ

ハリウッドを代表するトップスターであり、そのルックスで世界的人気を手にしたトム・クルーズは、あるときから身体を張った大スタントに挑むようになった。近年はそちらのイメージが強くなっており、本作でも陸を駆け、空を飛び、海に潜る活躍ぶりを見せ、肉体の躍動と特異な身体性をスクリーンに焼きつけている。

物語性が後退し、かわりにトム・クルーズ=イーサン・ハントが最前面に躍り出てくるあたりから、映画の様子ははっきりと変わる。沈没した潜水艦セヴァストポリに、イーサン・ハントが身体ひとつで潜入するくだりがそうだ。『北極の基地/潜航大作戦』(1968)や『U・ボート』(1981)『アビス』(1989)といった潜水艦映画を愛してやまないというマッカリーも、熱の入った演出を見せている。

このシークエンスで一同が挑んだのは、まず巨大な水槽を造り、そのなかにセットを建てて本物の水を流し込み、セットを回転させながら撮影を敢行するという荒業だ。そのつど、水に浸かった場所とそうでない場所が変化し、クルーズはその両方を行き来しながら演技とスタントをこなす。洗濯機さながらの環境と格闘する一挙手一投足を、あらゆる角度からのショットがとらえた。

回転する画面、作り込まれた美術、そのなかで危険なスタントに挑むトム・クルーズ、そのすべてが本物。まさしく、これまでに見たことがない映像体験のひとつだ。

また、後半では『トップガン』シリーズを思い出させる飛行スタントに挑戦。高度2400メートルを飛行中の複葉機にしがみつくと、あまりの風圧に顔の形がゆがむ。こちらも目を疑うような瞬間が連続するが、これらはクルーズ&マッカリーが『トップガン マーヴェリック』(2022)での経験を反映したもの。クルーズは自ら複葉機を操縦してもいる(エンドクレジットにはクルーズの名前がパイロットとしてもクレジットされた)。

大スターと危険なスタントの組み合わせは、ジャッキー・チェンをはじめとする往年の香港映画や、ひいてはバスター・キートンのコメディ映画にも通じる。とことん先鋭化されたアクションの強度は、もはや不可能に挑戦するトム・クルーズのドキュメンタリーというよりも、むしろ圧倒的な技芸としてのサーカスに近いだろう。そのとき、いよいよスクリーンから物語は消失し、「活劇」としての一面がひたすら映し出されることになる。