何がシリーズを「総決算」するのか?
本作『ファイナル・レコニング』が、『ミッション:インポッシブル』シリーズを総括するコンセプトで構想されたことは明らかだ。物語の序盤では、過去にハントが下した決断がエンティティの暴走につながったことが繰り返し指摘される。実際にシリーズ過去作の展開を新たな解釈で組み込んだことも含め、「過去が報いとなる」テーマを強調する意図だろう。
監督・脚本のクリストファー・マッカリーは、「我々の人生は、自らの選択の積み重ねによるものだ」という言葉がひとつのキーワードだったことを明かしている。「その人のすべて、その人の行動すべてがここにつながったのだ」と。

このテーマを別の角度から物語るのが、第1作『ミッション:インポッシブル』から復帰した2人の俳優である。前作『デッドレコニング』に続いてユージーン・キトリッジ役を再演するヘンリー・ツェニーのほか、CIAアナリストのウィリアム・ダンロー役を演じたロルフ・サクソンは約30年ぶりのカムバックとなった。2人とも単なるカメオ出演にとどまらず、予想以上の活躍を見せてくれる。
それでも『ミッション:インポッシブル』シリーズを総括するという狙いは、映画が展開するなかでさほど重要ではなくなってゆく。イーサン自身の過去が現在の脅威をもたらしたというストーリーの軸も、中盤からはスペクタクルの前にかき消されるのだ。
うまくいけば「予測不可能」、失敗すれば「脚本の破綻」。いまや『ミッション:インポッシブル』シリーズではおなじみの現象だが、これはマッカリー監督とクルーズが常に脚本を書き直しながら撮影を進めるためだ。マッカリーが監督として初登板した『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015)以来、この方法は変わっておらず、『デッドレコニング』と『ファイナル・レコニング』は当初から2部作として構想されながら、最終的な見通しが立たないまま撮影が進められたのである。

マッカリーとクルーズによると、2人は『ミッション:インポッシブル』の新作を手がける際、いつも「どんな映画になりたいか」を作品に尋ねるという。マッカリーいわく、それは「映画自体が求めるところに物語を導く」ためだ。
「“物語はあちらに進んでいる、間違いない”と考えながら撮影をしていると、“違う、そっちじゃない”と気づくことがあります。何が必要なのかを、物語そのものが教えてくれる。カメラを向け、自分自身で動かなければわからないことがたくさんあるのです」

もっとも私見を述べれば、この創作術が成功した『ローグ・ネイション』や『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018)と比べるまでもなく、今回の物語は破綻している。冒頭で示された設定は少しずつずらされ、意味深なセリフは回収されない。その一方で細部の辻褄あわせを続けるために全体像はあいまいになった。
それでも奇妙なことに、本作は『ミッション:インポッシブル』シリーズの総決算であり、観客を引き込む力を失っていない。ここで物語のかわりにシリーズを“総決算”するものは、ほかでもないトム・クルーズ自身なのである。