May 16, 2025 column

調和か破綻か、不可能に挑戦したトム・クルーズの行き着く先とは!?『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

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思えば、トム・クルーズといえば『ミッション:インポッシブル』であり、『ミッション:インポッシブル』といえばトム・クルーズだった――そのように表現しても、きっと間違いではないだろう。

『ラスト サムライ』(2003)や『マグノリア』(1999)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)、『レインマン』(1988)、そして『トップガン』シリーズと、数えきれないほどの代表作を有するクルーズだが、その半生を30年間にわたって貫いたシリーズはほかにない。しかも第1作『ミッション:インポッシブル』(1996)は、クルーズが初めてプロデュースを務めた映画だったのである。

最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は、「これぞトム・クルーズ、これぞ『ミッション:インポッシブル』!」というべき魅力が詰まった集大成だ。

シリーズ初の2部作として、あるいは単独作として

前作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』(2023)と本作は、シリーズ史上初の2部作としてもともと構想されていた。のちに変更されたものの、前作の劇場公開時のタイトルは『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』だったのだ。

クルーズ演じるイーサン・ハントらが前作で追跡したのは、人類の脅威となりうる超高度AIシステム、通称“エンティティ”だった。かつてロシアの次世代潜水艦・セヴァストポリに搭載されていたが、作戦中に暴走。セヴァストポリを海に沈めると、サイバー空間を移動して世界中のあらゆるシステムに侵入するようになった。

ハントたちは事態を鎮めるべく、組み合わせるとエンティティの鍵となる2本のキーを入手するよう命じられた。ところが、ハントはエンティティの恐るべき力を知るや、世界のどの国にも渡さず自ら破壊すると決意。目的のために鍵を狙うガブリエルと、CIA捜査官ブリッグス&ドガに追われながら、ついに2本のキーを手中に収めた――。

とはいえ、『ファイナル・レコニング』を鑑賞するうえで前作の展開を押さえなおす必要はないだろう。大切なのは、エンティティを利用したい敵役ガブリエルと、エンティティの脅威におびえるアメリカ政府、その両方から独立してAI破壊を目論むハントたちの関係のみ。物語としては独立しており、前作の衝撃的な展開にさえほとんど言及されない(!)。

そのかわりに本作のオープニングでは、エンティティによって世界がいかに変わってしまったかが示される。いまやエンティティは自我と学習能力を大幅に成長させ、恐るべき破壊力として世界に君臨するようになった。AIの暗躍により世界は激変し、サイバー空間に真実は失われ、現実空間には戦争の脅威が迫る。エンティティを崇拝するカルト集団は世界滅亡を願い、権力の中枢部にも忍び込んでいた。

戒厳令下のアメリカで、ハントは自分の行為が招いた代償を知る。それは、このままエンティティを野放しにしておけば4日後に核戦争が起こるという巨大なリスク。これまでハントが下してきた決断のひとつひとつが、この危機につながっていたのだ。

ハントはAIを止めようとするが、そのためには実体のないエンティティをおびき出す必要があった。ハントは再び命をかけ、かつてエンティティが搭載されていた潜水艦セヴァストポリの内部に潜入するため海底を目指す。