監督の才能×サーチライト作品×俳優陣の魅力
監督を務めたのは、タイカ・ワイティティ。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17年)などで知られる(『マイティ・ソー』は次の最新作も彼が手がける)ニュージーランド出身のワイティティは、自らジョジョの空想に現れるヒトラーを演じている。ちょっぴりふざけたムードで登場するこのヒトラーのおかげで、映画全体がコメディ色と、現実と距離を置いたファンタジー色を帯びることになった。
こうした前半からの軽快なムードに、ちょこちょこと戦争の現実が挿入され、そのタイミングが絶妙で、脚本も手がけたワイティティの才能には誰もが感心してしまうはず。ジョジョの運命を大きく左右するのが、当時のナチスドイツにおけるユダヤ人迫害であり、こうしたシビアなテーマと、笑いと感動のバランスも、まさに『グリーンブック』と一致している。
また注目したいのは、この『ジョジョ・ラビット』がFOXサーチライトの作品であるという点。一昨年(2017年度)のアカデミー賞で、最後まで作品賞を争った『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』がともにサーチライト作品だったように、相変わらずハイレベルな秀作を送り出している。メジャースタジオでは製作できないような野心的プロジェクトを、高い製作費をかけずに実現させるサーチライトだが、20世紀フォックスとともにディズニーの傘下に入ったので、映画ファンには今後の動向も気になるところ。『ジョジョ・ラビット』のように成功作が続けば、サーチライトのブランドも維持されるだろう。
そして『ジョジョ・ラビット』はキャストの魅力を最大限に発揮した作品でもある。ジョジョの母親役、スカーレット・ヨハンソンは、戦争下でも自分の意志を貫く潔さをセクシーにカッコよく演じてインパクトを残す。やはりアカデミー賞に絡む主演作『マリッジ・ストーリー』(19年)と、この『ジョジョ・ラビット』で、スカーレットのキャラクターの“ある日常行為”が、感動のポイントになるのは偶然だが、これも映画が起こすマジックだと思いたい。ヒトラーユーゲントの教官役、サム・ロックウェルもこのところ出演作が傑作ばかり。俳優の強運を感じさせる。何より、信じがたい名演技をみせるのが、ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイビスで、これが映画初出演とは思えない、愛おしいほどの表情に心を奪われない人はいないと断言したい!