傑作アクション映画『スピード』(94年)で世界的なブレイクを果たし、『マトリックス』シリーズでキャリアの絶頂を迎えたキアヌ・リーヴス。現在55歳となったキアヌが、見事アクションスターへと返り咲いたシリーズ最新作『ジョン・ウィック:パラベラム』がついに公開される。そのキャリアにおいて、つねにジャンルにとらわれない作品選びを続けているキアヌだが、やはり彼のキャリアを語るうえで外すことができないのは、アクション映画だ。そこで今回は、これまでの“キアヌ・アクション”の歴史を振り返りつつ、キアヌの持つ不思議な“愛され力”の正体に迫ってみたい。
大きな転機となった映画『ハートブルー』
1989年にヒットしたおバカコメディ『ビルとテッドの大冒険』で見事なボンクラ高校生を演じ、世間に認知されはじめたキアヌ。そんな彼が、初の本格アクション映画に出演したのが、1991年の『ハートブルー』だ。“初アクション”であることに加え、メジャースタジオのアクション映画の準主役というのは、当時のキアヌにとって大抜擢だったといえる。監督は『ハート・ロッカー』(08年)など、骨太な男のドラマを得意とする女性監督キャスリン・ビグロー。主演は前年に公開された『ゴースト/ニューヨークの幻』(90年)で一躍スターとなったパトリック・スウェイジという布陣。キアヌは、強盗サーファー集団に潜入捜査するFBIのエリート捜査官という役どころで、パトリック演じる集団のボス的な存在である男に心酔し、立場を超えた友情が芽生えていくというストーリーだ。
劇中でのキアヌの存在感はさすがにパトリックに劣るが、キレのあるアクションは未来のアクションスターを感じさせるに十分で、殴り合い、銃撃、住宅地での全力疾走チェイスなど、ベーシックなアクションをしっかりとこなしている。そしてなにより、その美しい顔立ちと若さゆえの危うさを備えた風貌は、“男が可愛がりたくなる男”としての説得力に溢れていた。それこそ、男の描き方に長けたビグロー監督のキアヌを起用した狙いだったに違いない。そして本作に出演したことで、キアヌのキャリアは転機を迎えることになる。
アクションの楽しさを知った『スピード』
1988年の『ダイ・ハード』の登場により、ハリウッドのアクション映画はリアル路線へと移行しつつあったが、依然としてこのジャンルは、マッチョなヒーローが大半を占めていた。
そんな1994年、「若手が主演で、しかもバスが舞台のアクション映画なんてヒットするわけがない」と、ほとんどのスタジオが脚本に興味を示さない中、ようやく『ハートブルー』を配給した20世紀フォックスでGOサインが出たのが『スピード』だった。本作のヤン・デ・ボン監督は、『ハートブルー』のキアヌを見て主演へと抜擢したと語っており、同作はまさにキアヌにとって転機の作品だったといえるだろう。
そんな『スピード』に対し、撮影当初のキアヌは、アクション映画に楽しさを感じていなかった。しかし、それを見抜いた監督はキアヌに「自分でスタントをやってみるか?」と持ち掛け、そこからキアヌはどんどん撮影にのめり込んでいく。そんな体を張った熱演は目を見張るものがあり、走行中の車からバスに飛び移る、バスの下に滑車でもぐりこむなど、数多くのスタントを自らこなしている。スタントをやりたがるキアヌを監督が止めることも度々だったそうで、キアヌは本作でアクション映画の楽しさを学び、映画も世界中で大ヒットを記録。自身も大ブレイクを果たしたのだった。
本作以降、ハリウッドアクションはリアル路線に加えて、スマートな若手俳優の主演が主流になっていく。まさにキアヌのお陰で、一気にアクション映画への門戸が開かれたのだった。そして3年後、続編『スピード2』の脚本を読んだキアヌは、素晴らしい嗅覚の鋭さで降板してしまうが、その後10数年にわたって20世紀フォックスからのオファーが来なくなってしまうのだった。