Oct 17, 2023 column

いまに響く猪木問答 ドキュメンタリー映画『アントニオ猪木をさがして』 

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いつでも受けて立つ、それで負けても悔いはない

なぜ本作に3部のドラマパートが構成されているのかは、最後に分かる。
2000年代のある日、安田顕演じる男は、リストラにあい、家族と別れひとりになり、慣れない仕事をしている。
彼は、かつて1984年6月15日 IWGPでのVSホーガン戦に熱狂していた少年だった。そして、大人になったいま1996年1月4日 東京ドームVSベイダー戦の映像を観て、涙を流しながら猪木を応援する。まるで自分を鼓舞するかのように‥‥。

この試合、身長190センチ体重180キロのビッグバン・ベイダーが放ったムーンサルトプレスを猪木はモロに喰らい硬直したように動かなくなった、その時、実況の辻よしなりの名文句が生まれた。

「苦しくてもがいている、明日にも自殺しようとしている人がいるかもしれません! しかし、猪木は逆境から這い上がることを体現している訳であります!!」

3部のドラマは、どこにでもいる猪木に憧れたある男の人生だ。そして、このドラマが、3部に差し掛かる頃には、いまも猪木とともにあることを改めて感じさせてくれる。

2020年2月2日札幌大会、気になる選手としてアントニオ猪木と叫んだオカダカズチカは言う「何か生まれるんじゃないか、何かあるんじゃないか、いろんなことを聞いてみたかった」と。

2020年2月20日アントニオ猪木はYoutuberになると宣言し、「最後の闘魂」チャンネルを開設する。そして同年7月Twitterで心アミロイドーシスと闘病していることを公表した。

心アミロイドーシスとは、全身性アミロイドーシスが部分的に現れた症状で、線維構造をもつたんぱく質・アミロイドが、臓器に沈着することによって機能障害が引き起こされる病気。原因は分かっているものの、発症のメカニズムなどは判明していない厚生労働省指定の難病だ。

たとえ病床に臥していても、なにかやってくれるんじゃないかと、期待させるものが、アントニオ猪木にはある。我武者羅に生きる姿が我々を振るわせるのだ。

このドキュメンタリーは、猪木の試合後の勝利者インタビューで締め括られる。壮絶な試合の後、次の試合も勝てますか?と聞かれた彼は、こう答えた。

「一生懸命戦っても負けることもある、これは宿命なんですね。10年保つ選手生活、1年で終わってしまうかもしれない。しかし、それがファンに対しての我々の義務だと思う。

誰が挑戦しても、私が勝てない相手がいるかもしれない、なかには。
しかし、私はいつ何時でも受けて立つ、それで負けても悔いはない。そういうつもりです」

時代は変わっていくし、人も変わっていく。しかし人間がもがいているのは、時代も年齢には関係ない。このドキュメンタリーは、いまを生きる中高年に改めて、おめぇはそれでいいのか?と覚悟を突きつける人生の応援歌である。プロレスをつくってきた側面に、戦い抜いた男たちが発する言葉がある。アントニオ猪木の生き様と言葉が、いまも我々を奮い立たせる。

文 / 小倉靖史

作品情報
映画『アントニオ猪木をさがして』

2022年10月1日に79歳で惜しまれつつこの世を去ったアントニオ猪木。「馬鹿になれ!」「元気ですか!?」等のアントニオ猪木の発した【言葉】の数々を切り口に“挑み続けた男・アントニオ猪木”の真に迫っていくドキュメンタリー映画。

監督:和田圭介 三原光尋

出演:アントニオ猪木 ほか

配給:ギャガ

©2023 映画「アントニオ猪木をさがして」製作委員会
写真:原 悦生

公開中

公式サイト gaga.ne.jp/inoki-movie/