Jun 30, 2023 column

失われつつあるアークがここにある『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』

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すべての始まりは映画界の至宝が集まった聖櫃

 映画版「インディ・ジョーンズ」シリーズは『失われたアーク《聖櫃》』、『魔宮の伝説』(1984年)、『最後の聖戦』(1989年)、『クリスタル・スカルの王国』(2008年)、『運命のダイヤル』と全5作あるが、ベストは『失われたアーク《聖櫃》』だと思っている。

 1981年の公開時には『ジョーズ』(1975年)のスティーブン・スピルバーグと『スター・ウォーズ』(1977年)のジョージ・ルーカスが夢のタッグを組んだことが話題になった。そのきっかけは4年前の1977年のハワイにさかのぼる。『スター・ウォーズ』の全米公開1週間前、ルーカスは大ゴケすると思い込み、現実逃避するため、ハワイへ旅行し、スピルバーグと偶然出会った。国際的なスケールとエキゾチズムを兼ね備えた「007」シリーズが大好きなスピルバーグが「将来は「007」(シリーズを作ってみたい」と言うと、ルーカスは「10年前から温めていた、もっと面白い企画がある」と話したのがインディ・ジョーンズだった。

そうして、ルーカス製作総指揮、スピルバーグ監督という製作体制が組まれ、シリーズ最高傑作の呼び声も高い『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1985年)のローレンス・カスダンが脚本、ジョン・ウィリアムスが音楽を手掛けた。

『失われたアーク《聖櫃》』には、シリーズを決定づけたものがすべて詰まっている。考古学への興味、世界をまたにかける冒険劇。歴史ミステリー、オカルト、アクションにさらにはラブロマンスも。物語は歴史という縦軸と、ペルーの密林、ネパールの山奥、カイロの砂漠という移動という横軸がうまくハマっている。また、悪役も世界征服を目論むナチスというのがいい。敵は強大であればあるほど、物語は深みを増す。

とにかく、インディが魅力的だ。トレードマークはツバ広のソフト帽。武器はムチという考古学者のイメージからは離れている人物。マーシャル大学(プロデューサーのフランク・マーシャルにちなむ架空の大学)で教鞭をとる知的さ、幻の秘宝を探し求めて冒険に出る野心もあるタフガイ。クールさだけではなく、ユーモアもある。

しかも、当時の「007」シリーズのジェームズ・ボンドと違って、ちゃんと弱点もある。長いムチを自在に操るのに、ヘビは大の苦手。そのインディがアークの隠し場所「魂の井戸」では6000尾もののヘビに直面。弱点を徹底的に攻めるのがいい。完全無欠のヒーローではないところが共感ポイントになっている。