Dec 29, 2019 column

令和元年の日本映画をプレイバック!もっと評価されるべきは『宮本から君へ』

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台風の目となった“スターサンズ”

興収ランキングにこそ顔を出していないが、劇場に足を運んだ観客に強烈なインパクトを与えたのは、池松壮亮と蒼井優が共演した劇場版『宮本から君へ』。2018年にテレビ東京系で放映された深夜ドラマ『宮本から君へ』の劇場版と思われがちな企画だが、じつはTVシリーズと劇場版は制作会社が異なっている。TVシリーズで一度終わった企画を、原作をリスペクトする主演の池松と真利子哲也監督が大変な熱量で再起動させ、完成に至った苦心作だった。

新井英樹の原作コミックの前半部分をドラマ化したTVシリーズに対し、劇場版では映像化不可能とされていた宮本と靖子との過激なベッドシーン、衝撃的なバイオレンスシーンが盛り込まれた後半部分をきっちりと描いている。不器用ながらも自分の信じる道を一途に走る主人公・宮本役を池松はこれ以上ないほどの熱さで一心同体化してみせた。また、池松の熱演をしっかりと受け止めてみせた蒼井の“受け”の演技もすごい。劇場で観る機会があれば、ぜひスクリーンで堪能してほしい。

『宮本から君へ』(公開中) ©2019「宮本から君へ」製作委員会

劇場版『宮本から君へ』を手掛けた制作会社“スターサンズ”は近年、邦画界の台風の目となっている。安藤サクラ主演『かぞくのくに』(11年)、菅田将暉とヤン・イクチュンが共演した『あゝ、荒野』(17年)などの快作を放っている。2019年も韓国の人気女優シム・ウンギョンと松坂桃李というユニークな顔合わせとなった社会派ミステリー『新聞記者』をヒットさせ、日本社会にはびこる“同調圧力”の不気味さを題材にした森達也監督のドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』も話題を呼んでいる。

大手映画会社が敬遠しがちな骨太な題材に“スターサンズ”は果敢に挑んでおり、企画のおもしろさで人気若手俳優たちのキャスティングにも成功している。リスクを排除する方向で進むメジャー系の映画会社とは異なる映画づくりで存在感を示している、インディペンデント系ならではの映画会社だ。

Netflixが人気コンテンツを生み出せる理由

動画配信サービスNetflixも映画界を大きく揺るがした。日本オリジナルコンテンツとなる山田孝之主演ドラマ『全裸監督』の配信が8月から始まり、大反響を呼んだ。ビデオ業界で成功を収め、バブル期には年収100億円を稼いだ村西とおる監督の破天荒な生き様を、『百円の恋』(14年)などで知られる武正晴監督らが全8話の実話系ドラマに仕立てたもの。オーディションで選ばれた森田望智ら若手女優たちの体当たり演技に加え、世間の常識に縛られない村西監督のワイルドな処世術が、映画館から足が遠のいていた大人たちの心を捉えた。日本だけでなく、『全裸監督』はアジア各国でも人気となっている。

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』(独占配信中)

Netflixは『全裸監督』に続いて、ハリウッド進出が決まっている園子温監督の『愛なき森で叫べ』も10月から配信している。『冷たい熱帯魚』『恋の罪』(ともに11年)などの実話ベースの過激な犯罪映画で大ブレイクした園監督が、やはり実在の犯罪事件からインスパイアされて撮り上げた上映時間2時間32分の大作だ。

第2シーズンの制作も決まった『全裸監督』や、『愛なき森で叫べ』から分かるように、Netflixはクリエイターの表現を尊重しており、有料配信としてどこまでの表現が可能なのかコンプライアンス面からも検討し、安易な自主規制によって企画や表現の幅が狭くなることを回避している。製作費も潤沢にあることから、自由度を求める監督たちの参入が今後も増えるに違いない。