Dec 30, 2018 column

『万引き家族』『カメ止め』だけじゃない!! 2018年邦画“隠れ名作”セレクション

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今が旬! 充実期を迎えた監督たち

 

現在の日本映画シーンを語る上で外すことができないのが白石和彌監督だ。2018年は北原里英主演の犯罪サスペンス『サニー/32』、ヤクザ映画へのオマージュ作『孤狼の血』、門脇麦主演の実録映画『止められるか、俺たちを』とタイプのまったく異なる3本の新作を公開。とりわけ、『止められるか、俺たちを』は白石監督がインディーズ映画に対する万感の想いを注いだ珠玉の青春映画に仕上がった。

 

『止められるか、俺たちを』(公開中) ©2018若松プロダクション

 

『止められるか、俺たちを』は白石監督の師匠である“ピンク映画界の巨匠”若松孝二監督(井浦新)の過激な生き様を、実在した女性助監督・吉積めぐみ(門脇麦)の視線から描いたもの。映画のことを何も知らずにピンク映画の製作現場に飛び込んだめぐみだが、アクの強い仲間たちと切磋琢磨していくことで一人前の助監督へと成長していく。映画の世界にようやく自分の居場所を見つけためぐみが「映画監督になりたい。でも、撮りたいテーマが見つからない」と悩む姿は、映画の世界に限らず誰もが共感を覚えるものだろう。

1974年生まれの白石監督の1歳下になる吉田恵輔監督も、森田剛主演作『ヒメアノ~ル』(16年)から好調さをキープしている。吉田監督のオリジナル脚本作『犬猿』は、窪田正孝、新井浩文、ニッチェの江上敬子、リアリティー番組『テラスハウス』(フジテレビ系)で人気を得た筧美和子たち4人のアンサンブルが楽しい。幼いときから身近にいる兄弟、姉妹ならではのうざったさを痛みと笑いを交えて描いており、そのうざったさを受け止めることは家族、そして自分自身も肯定することだと気づかせてくれる。

吉田監督のもう一本の監督作『愛しのアイリーン』もインディペンデント系ならではの振り切った作品だった。4月期に池松壮亮主演ドラマとして放映された『宮本から君へ』(テレビ東京系)の原作者である漫画家・新井英樹の代表作を完全実写化したもので、主演の安田顕、オーディションで選ばれたフィリピンの若手女優ナッツ・シトイ、姑役の木野花たちの体当たりの演技を吉田監督は引き出してみせた。過疎化が進む保守的な農村を舞台に、契約結婚という今日的なテーマを生々しくあぶり出している。『楢山節考』(83年)、『うなぎ』(97年)で2度のカンヌ映画祭パルムドールに輝いた今村昌平監督を思わせる土着的な世界が描かれていた。テレビドラマや日本のメジャー系映画に物足りなさを感じている人は、ぜひチェックしてみてほしい。