Dec 30, 2018 column

『万引き家族』『カメ止め』だけじゃない!! 2018年邦画“隠れ名作”セレクション

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『犬猿』(Blu-ray・DVD 発売中) ©2018「犬猿」製作委員会

 

日本のインディペンデント系映画が元気だった2018年の映画界。是枝裕和監督の『万引き家族』は日本映画としては21年ぶりとなるカンヌ映画祭パルムドールを受賞し、国内興収も45億円の大ヒットに。無名の監督と俳優たちによって製作された『カメラを止めるな!』は都内2館での公開から始まり、口コミやSNSでその面白さが広まって、31億円超えの拡大ヒットとなった。『万引き家族』『カメ止め』の他にも、見応えのある作品が多かった2018年の日本インディペンデント映画を振り返ってみたい。

 

大ヒットの話題に隠れてしまった名作は?

 

『カメ止め』の封切り館として“インディーズ映画の聖地”となった感のあるのが新宿のミニシアターK’s cinema。客席数84席という小さな劇場だが、シネコンではお目にかかれない独自のプログラムを組んでいることで知られている。6月公開の『カメ止め』が連日満席の大賑わいを続ける中、7月から同館で公開がスタートした安藤政信主演作『スティルライフオブメモリーズ』も静かな話題を集めた。

安藤政信がプロのカメラマンを演じた『スティルライフオブメモリーズ』は、かなりユニークな作品だ。フランスの写真家アンリ・マッケローニの実話をベースにしたもので、『ストロベリーショートケイクス』(06年)や『無伴奏』(16年)を撮った矢崎仁司監督らしい、エッジの効いた内容となっている。気鋭のカメラマン・春馬(安藤政信)が一人の女性から依頼を受け、人里離れた廃屋でその女性の局部を週に一度のペースで撮り続けるというもの。扇情的になりそうな題材だが、ここ数年で大人の男の魅力を増しつつある安藤のナイーブな演技によって、女性自身が気づかずにいる女性の深遠なる美しさをフォーカスしたものとなっている。安藤は俳優を辞めてカメラマンになることを本気で考えていた時期があっただけに、カメラを通して女性に向き合う姿にも真摯さが感じられる。

 

『ごっこ』(公開中) ©小路啓之/集英社 ©2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

 

『万引き家族』と同様に、日本社会の暗部に迫った熊澤尚人監督の『ごっこ』も主演の千原ジュニアが熱演を見せた力作だった。児童虐待、年金の不正受領、血の繋がらない疑似家族……と『万引き家族』と共通するテーマを扱った『ごっこ』は2015年に主な撮影を終えたものの、様々な事情が重なり、一時お蔵入りしかかっていた作品だ。

千原ジュニアや熊澤監督の前作『ユリゴコロ』(17年)で吉高由里子の幼少期を演じた子役・平尾菜々花が名演を見せているだけに、お蔵入りせずに本当によかったと思う。現在こそ一児の父親となっている千原ジュニアだが、撮影時は結婚したばかりだった。平尾との劇中でのやりとりもたどたどしさがあるが、“家族ごっこ”を重ねていくうちに次第に父親らしい表情へと変わっていく過程は、ドキュメンタリー映画を観ているかのようなリアリティーがある。

公開規模では『万引き家族』に敵わなかった『ごっこ』だが、テーマ性とキャスト陣の熱演ぶりでは決して引けを取らない良作である。