Sep 28, 2019 column

『ホテル・ムンバイ』が描く実行犯サイドの視点、事件と映画化のタイムラグ

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事件を映画化するタイムラグ

この『ホテル・ムンバイ』が完成したのは、2018年。事件からちょうど10年後だ。ムンバイ同時多発テロを題材にした映画はほかにもあり、やはりタージマハル・ホテルを中心にした『ジェノサイド・ホテル』は2017年製作と、事件から9年後。そしてタージマハル・ホテルのスイートルームに取り残された少女を中心に描いた『パレス・ダウン』は2015年の製作で、事件から7年後の作品。興味深いのは、世界を揺るがせたテロ事件を映画化する際のタイムラグである。

2001年の9.11 同時多発テロの映画では、『ユナイテッド93』が2006年製作で、同じ年にNYのランドマークの崩壊と救出劇を描いた『ワールド・トレード・センター』が作られている。ともに事件から5年後となる。2011年のノルウェー連続テロ事件は、『ウトヤ島、7月22日』と、ポール・グリーングラス監督の『7月22日』(Netflix)が、ともに2018年の公開・配信(前者の日本公開は2019年)で、事件から7年後という共通点がある。ボストンマラソン爆弾テロ事件も、全米公開日でいえば、事件発生から犯人逮捕までを描いた『パトリオット・デイ』が2016年12月、被害者側を中心に描いた『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』が2017年9月と、こちらも近い時期になっている。

『パトリオット・デイ』(Blu-ray・DVD 発売中) TM & ® CBS Films, CBS and Eye Design and all related logos are marks of CBS Broadcasting Inc. Patriot’s Day © 2016 CBS Films Inc. and Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved. Artwork & Supplementary Materials © 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

その事件をイチ早く映画で再現し、人々の記憶にとどめたいというモチベーションもあるだろう。しかし、ある程度の時間をおいて、十分な検証を行って完全なものを、あるいは独自の視点で撮った作品を後世に語り継ぎたい場合もある。もちろん事件が世界に与えたインパクトにも左右されるが、同じテロ事件を扱った複数の映画が同時期に生まれるのは、こうした要素が絡んだうえでの“必然”なのかもしれない。

何より、製作側が気にするのは、事件の生存者や犠牲者の遺族への配慮である。『ホテル・ムンバイ』で、アーミー・ハマーが演じたデヴィッドは実在の人物ではなく、複数のモデルを合わせたキャラクターだという。ハマー自身、「とにかく肝に命じたのは、事件に巻き込まれた当事者と、その周辺の人たちへの敬意を一瞬たりとも忘れないこと」と、撮影時の心構えを語っていた。

テロ事件の映画化は巨大な収益を生む可能性もあるため、非難を浴びることもある。実際にグリーングラス監督の『7月22日』では、凶悪な犯人の実像にもフォーカスすることから、ノルウェー本国から反発も起こり、メインのロケ地をノルウェーからアイスランドに変更せざるをえなかったという。

未曾有の悲劇を映画にすることは、必要以上の覚悟とセンシティヴな判断が要求される。しかし、そうした高いハードルを乗り越えて完成されるわけで、生半可な作品になっていないケースも多い。『ホテル・ムンバイ』は、その事実を証明してくれるだろう。

文/斉藤博昭

公開情報
『ホテル・ムンバイ』

インドの巨大都市ムンバイに、臨月の妻と幼い娘と暮らす青年アルジュン(デヴ・パテル)は、街の象徴でもある五つ星ホテルの従業員であることに誇りを感じていた。この日もいつも通りのホテルの光景だったが、武装したテロリスト集団がホテルを占拠し、“楽園”は一瞬にして崩壊する。500人以上の宿泊客と従業員を銃弾が襲う中、テロ殲滅部隊が到着するまでに数日かかるという絶望的な報せが届く。アルジュンら従業員は、「ここが私の家です」とホテルに残り、宿泊客を救う道を選ぶ。一方、赤ん坊を部屋に取り残されたアメリカ人建築家デヴィッド(アーミー・ハマー)は、ある命がけの決断をするのだが──。
監督:アンソニー・マラス
出演:デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス
配給:ギャガ
公開中
R-15
©2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
公式サイト:gaga.ne.jp/hotelmumbai/

DVD情報
『ユナイテッド93』

Blu-ray:1886円(税抜) DVD:1429円(税抜)
発売中
NBCユニバーサル・エンターテイメント
Film © 2006 Universal Studios. All Rights Reserved.
※2019年10月の情報です。

『ウトヤ島、7月22日』

Blu-ray:4700円(税抜) DVD:3800円(税抜)
2019年10月16日発売
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ 販売元:ポニーキャニオン
©2018 Paradox

『パトリオット・デイ』

Blu-ray:4743円(税抜) DVD:3800円(税抜)
発売中
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
TM & ® CBS Films, CBS and Eye Design and all related logos are marks of CBS Broadcasting Inc. Patriot’s Day © 2016 CBS Films Inc. and Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved. Artwork & Supplementary Materials © 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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