Sep 28, 2019 column

『ホテル・ムンバイ』が描く実行犯サイドの視点、事件と映画化のタイムラグ

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テロリスト側をどう描くのか

『ユナイテッド93』でも何人かの乗客が勇気を振り絞って、犯人たちと闘ったように、この『ホテル・ムンバイ』も“自己犠牲”がキーワードとなる。ホテルの従業員は内部構造に詳しいので、密室といっても、いくらでも外への逃げ道は熟知している。しかし自分たちが先に逃げたら、各部屋に取り残された宿泊客はどうなるのか? この判断と行動は、実際に当時のタージマハル・ホテルの従業員たちの行動が映画にも反映され、激しく心を揺さぶる要素になっているのだ。まさに“名もなきヒーロー”たちの勇気だ。

アーミー・ハマーが「キャリアの中で最も過酷な撮影だった」と語ったように、デヴ・パテル(『スラムドッグ$ミリオネア』/08年)、ジェイソン・アイザックス(『ハリー・ポッター』シリーズ)らメインキャストにも激烈なシチュエーションが強いられ、はたして誰が生き残ることができるのか、まったく予断を許さないのが本作の特徴。決して予定調和の展開ではない点も、リアルな緊迫と恐怖を加速させる。

そしてもう一点、『ホテル・ムンバイ』で注目すべきは、実行犯グループの描き方だ。通常のテロ映画の場合、あくまでも被害者側の視点が重視され、テロリスト側の素顔がよくわからないことが多い。単なる悪魔として、映画の観客を震え上がらせる役割があるからだ。極端な例を挙げるなら、今年、日本で公開された『ウトヤ島、7月22日』(18年)。2011年、ノルウェーで合計77人が亡くなった、単独犯としては史上最多の犠牲者を出したテロ事件を描いた作品だが、69人を殺害したウトヤ島のシーンが、72分間、ワンカットの映像で再現されて話題になった。この『ウトヤ島~』に犯人の顔はいっさい出てこない。“素顔が見えない不気味な相手”として描かれている。映画の中のテロリストとしての典型例だろう。その分、観る側は被害者側の戦慄を共有することになり、これは正しい選択でもある。

『ウトヤ島、7月22日』(Blu-ray・DVD 2019年10月16日発売) ©2018 Paradox

しかし、『ホテル・ムンバイ』は、主人公のホテル従業員、アルジュン役のデヴ・パテルが「この映画は、犯人側の気持ちも描いているところが斬新」と話している通り、実行犯グループの“顔”がかなりクローズアップされている。少年の面影を残している彼らは、当然のことながら首謀者の手先。利用されている立場である。彼らの顔に宿る焦燥感や葛藤は、テロを引き起こす現在の国際情勢を代弁しているのかもしれない。もちろん彼らの非情な行為は弁護できるものではないが、何らかの思想に洗脳され、自らの意志を封じて凶悪なテロを実行する。あまりに切実な姿を、『ホテル・ムンバイ』は、うっすらと、しかし確実に映し出す。

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