スピード感溢れるJ・J・エイブラムスの作品は、『ミッション・インポッシブル』シリーズで製作に携わった『フォールアウト』(2018) が映画評論サイト「Rotten Tomatoes」のトマトメーター (批評家の評価指数) 98%の支持率を得ている(日本時間2025年5月27日時点)ことからも明らか。そんなJ・J・エイブラムスが、世界中が熱狂した無人島ドラマ「LOST」(2004~2010)のキャストとリユニオンを実現させた新シリーズ「DUSTER / ダスター」シーズン1が全米でスタート。6月末には『トップガン マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキー監督が贈るブラッド・ピット主演映画『F1/エフワン』も全世界公開。2025年夏のカーチェイス期待作を配信ドラマと映画のダブルでご紹介。


J・J・エイブラムスの70年代犯罪スリラー「DUSTER / ダスター」シーズン1
J・J・エイブラムスといえば、『SUPER8/スーパーエイト』(2011) 、『スター・トレック』(2009) 、『スターウォーズ/フォースの覚醒』(2015) などSFアクション映画を代表する存在で、バッド・ロボット・プロダクションズのロゴにお馴染みのファンも多いはず。しかし、90年代の海外ドラマシリーズ「フェリシティの青春」(1998~2002) や「エイリアス」(2001〜2006) 、そして、世界中が熱狂した無人島ミステリー「LOST」(2004〜2010) が、大ヒットしたように、ドラマシリーズこそ彼がもともと得意とした分野だったのである。

15年ぶりにJ・J と「LOST」チームとのリユニオンとなったのがHBO MAX「DUSTER / ダスター」。砂漠の公衆電話の電話が鳴り、男がマッスルカーで突然現れる。J・Jの脳裏に現れた漠然としたイメージの中で、「LOST」でニヒルなジム役のジョシュ・ホロウェイが頭から離れなかったそうだ。物語を展開させるパートナーとなったのが、サバイバル・ホラー・ドラマ「ウォーキング・デッド」(2010〜2022)の黒人女性脚本家ラトーヤ・モーガン。J・J とラトーヤが考え出した主人公は2人の人種の違う男女。舞台は70年代アメリカの南西部の砂漠地帯。ジムは、有力な黒人ギャングの元で親の代から奉公するドライバー。ニーナ(レイチェル・ヒルソン)は新地に派遣されたばかりの最年少黒人女性FBI捜査官。白人捜査員たちから見下されても目的に向かって突進し、FBI、ギャングの仁義と裏切り、攻防戦はタランティーノやスコセッシの雰囲気をも醸し出す70年代犯罪スリラー。エピソード毎に、マッスルカーのカーチェイスが登場することで新たなジャンルとしてスピード感いっぱいの配信シリーズとなっている。
アクション作品の主人公と車の関係は深い。主人公が乗る車は、そのアイデンティティの一部として描かれ、それぞれのかっこよさに観客は魅了されてきた。名作スティーブ・マックィーン映画には米マッスルカー、マスタング。『007』シリーズのジェームズ・ボンドには英国製アストン・マーティンと、物語の中で描かれる主人公の車が展開するカーアクションは、その物語のプロットとして観客を魅了し続けてきた。
その最高峰を極めたのが『ワイルド・スピード』シリーズ (2001~) 。ドラッグレースのカーマニアをターゲットにし、そのファンだけでなく、一般の映画ファンをも魅了したこのフランチャイズは、初回を1作目をロブ・コーエン、続編となる『ワイルド・スピードX2』(2003) をジョン・シングルトンが監督。そして2006年の『TOKYO DRIFT』でアジア系アメリカ人監督のジャスティン・リンによって、映画の規模を拡大し、多くのアジア系キャスト、日本車のドラッグレースまで幅を広げ、クールな世界観をうみだして興行を成功させた。来年には、待望の完結編も公開予定。このシリーズを支え、スケールの大きいカーチェイス・シーンを可能にするために最高188体のアンティークカー車輌を走行できるようにチューンアップして用意したのが、この「DUSTER / ダスター」シリーズの車輌も担当しているピクチャー・カー・ウェアハウス。
マッスルカーのファンならたまらない車輌がロサンゼルスのお膝元、サン・フェルナンドバレーに数多く保管されている。ダスターは1972年からPlymouthで6年だけ製造されたレアな車で、アイコニックな車体とスピードは、主人公が走り回るのにぴったり。役のために、特別なドライビング・レッスンにすぐさま通った俳優ジョシュ・ホロウェイは、ダスターを乗りこなすためのスキルを習得し、「LOST]時代とはまた違ったダンディな趣きでシリーズを引っ張っている。アメリカでも日本でも、年代物のカスタムカーの熱狂的ファンが多く存在。アメ車、日本やドイツなどのマッスルカー祭典なるカー・フェスは大小にかかわらず人気で毎年、季節の風物詩となってファンの目を楽しませている。ハリウッドでもスタントマン発信の ” CarCrashingClinic” などが俳優にカースタントの訓練を行うなど、映画のカーチェイスの需要は相変わらず大きい。

「DUSTER / ダスター」シリーズの魅力は、70年代の車だけでなく、当時のファッションや正義を求めるスピリットに溢れている点にもある。60年代後半、アメリカの物質主義やベトナム戦争などに反対し、若者が唱えた反権力、反体制が、現在の社会状況とも呼応。”平和、愛、自然”と開放的で自由の象徴が反映され、正義をつらぬくチームワークもこの作品の見どころ。FBIコンサルタントとして女性が起用されたのが1972年。黒人女性が起用されたのは1976年だそうで、米社会的背景もかなりリサーチされ、多様なアンサンブルキャストで粋なエンタメ作品に仕上がっている。