アカデミー賞を受賞した作品にはロードムービーが多い。『ドライビング・ミス・デイジー』は年老いたユダヤ人女性とその黒人運転手が織りなす長年の交流を描いた作品。『グリーンブック』は黒人ジャズピアニストとその白人運転手兼ボディガードの話だった。映画『ドライブ・マイ・カー』で赤いサーブを走らせる男性はどんな主人公なのか、そして夜のドライブをお供する女性運転手とは?と映画は、コロナ渦の癒しを求めるアメリカ人の心を捉えてやまない。この映画を最初に見出した米配給会社の戦略もまたすごい。インディワイヤー誌の記事によると、アートハウス系映画の特徴を見極め、劇場のみで公開して米批評家を巻き込んでいった方針が成功の鍵だったという。カンヌ映画祭から次々と話題を作り、アカデミー賞の作品賞にも選ばれてようやく来月2日(現地時間)よりHBO Maxでも全米に配信されることが決定している。
映画『ドライブ・マイ・カー』は作品賞、監督賞、外国語映画賞の他、脚色賞として、村上春樹原作「女のいない男たち」の短編3作品「ドライブ・マイ・カー」「シェエラザード」「木野」をどう一つの映画にされたかも評価されている。例えば、最初に長い導入で過去を説明し、映画に合わせてフラッシュバックを使わずに第一部終了でクレジットを流した点など、ハリウッド映画にはないアプローチにも驚きがあったようだ。さらに劇中劇チェーホフの「ワーニャ伯父さん」のテーマ、失意のドン底でも生きなくてはいけないというメッセージは、劇の台詞を繰り返し練習する主人公の行為の中で、フィリップ・グラスの現代音楽のように、いつまでも癒えない主人公、家福の心の中を表現するリズムとなって流れていく。ここでは、脚色賞で競合している他4作品を比べ、強者監督たちと並ぶ濱口竜介監督とともに、脚本を執筆した大江崇允氏も応援したい。
映画化不可能とまで言われたSF大河小説「デューン」
脚色賞にノミネートされている作品群はなかなか見応えがある作品ばかり。とくに興行的に大成功したのがSF超大作『DUNE/デューン 砂の惑星』。特撮の実力は『ブレードランナー 2049』などでも発揮しているカナダ出身ドゥニ・ビルヌーブ監督。映画は作品賞を含めて10部門にノミネートされている。原作ファンも大絶賛している作品の配役は、宇宙の未来を託される主人公に映画界の貴公子ティモシー・シャラメ。運命の女性役に、女優でシンガー、絶妙に踊りもうまいゼンデイヤを起用し、映画離れしている若い層にもアピールしたキャスティング。すでに続編の製作準備に入っていて、待望の次回作は来年秋に予定されている。
アメリカ人作家フランク・ハーバートが約6年間かけて書いたSF大河シリーズの映画化はハリウッド映画人の夢だったといっても過言ではない。1960年代当時、ジャーナリストだった作家ハーバートはオレゴンの砂漠の記事を書くために資料収集していた際、その資料が膨大になったことで小説のアイディアへと発想を展開し、作品はベストセラーとなった。人類のサバイバルと進化、宗教や政治など、壮大なスケールの内容は、あのジョージ・ルーカスも多大な影響を受けて『スター・ウォーズ』シリーズの製作に至ったという。