Feb 16, 2022 column

第5回:第94回アカデミー賞ノミネート作品【 1. メークとヘアスタイリングから読む女優たちの挑戦】

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メイクアップ/ヘアスタイリング部門にノミネートされなかった 映画『スペンサー ダイアナの決意』

日本の公開は今年秋とだいぶ先に公開される映画『スペンサー ダイアナの決意』。主演女優賞に初ノミネートされたのが、ティーンを一世風靡した『トワイライト』シリーズのクリステン・スチュワート。映画は英国ダイアナ王妃が彼女の故郷サンドリンガムで過ごした3日間のクリスマスホリデイが舞台。クリスマスという華やかな王室のもてなしとは相反して、今にも壊れそうな王妃ダイアナの心情を見事に演じるスチュワート。そのほかの出演俳優も含め、緊張感がみなぎる演出は、映画『ジャッキー / ファーストレディ 最後の使命』で、一躍有名になったチリ出身のパブロ・ラライン監督の手腕。ジョン・F・ケネディ大統領暗殺を目の前で目撃した妻ジャクリーン・ケネディが、ホワイトハウスへ戻ったあとの心の高鳴りを女優ナタリー・ポートマンが演じて、オスカーにノミネートされたのは記憶に新しい。

©Pablo Larrain

この『スペンサー ダイアナの決意』のヘアを担当したのが日本人ヘアメイク・デザイナーの吉原若菜 ( link : Instagram ) 。イギリス在住で前述の『ベルファスト』のメイクも担当していて、今回、作品賞にノミネートされた2作品のヘアメイクを担当していたキーパーソンである。基本、特殊メイクを含む作品に賞が与えられがちだが、私が映画を見たあとで驚いたのが、スチュワートの「ダイアナカット」のヘアがウィッグだったこと。インタビュー素材を読むと、吉原さんがダイアナ王妃の髪型を扱ったのはナオミ・ワッツ主演の『ダイアナ』が最初だが、若い頃、流行したジェニファー・アニストンの髪型のニーズのため、ウェーブ作りばかりさせられてつらかった訓練が今回役立ったと微笑ましいエピソードがあった。

映画でのスチュワートの髪型は監督の要望で、1991年当時の髪型のまま描くのではなく、女優に似合うことを優先。助演の俳優たちの髪型も工夫がされていて、『シェイプ・オブ・ウォーター』で知られる助演のサリー・ホーキンスも一変し、とても存在感がある。そのほか、怖い執事の雰囲気もダイアナが監視されているという緊迫感を醸しだし、英国ロイヤルファミリーの見て見ぬふりという様相も時代考証を考えられたヘアメイクが施されて見応えがある。ダイアナ王妃の死後から何度も映画やテレビ化されている話だが、この映画はある意味、新鮮だった。

来月、3月27日(現地時間)に予定されているアカデミー賞。先月とは一転して、オミクロン株もだいぶ落ち着き、約7万人の観客を前にスーパーボウルまで開催可能となったロサンゼルス。定例のドルビーシアターで予定通りに行うことが可能になるのか、ハリウッド業界全体のカウントダウンが始まっている。

文・写真 / 宮国訪香子
※写真はクレジットなしのもののみ