Feb 16, 2022 column

第5回:第94回アカデミー賞ノミネート作品【 1. メークとヘアスタイリングから読む女優たちの挑戦】

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今月8日、第94回アカデミー賞ノミネーションがコロナ禍対策の中、取材記者なしでストリーミング発表された。主要な部門でノミネートされた伝記映画の数は目を見張るものがある。ハリウッドの70年代を描き続けるポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『リコリス・ピザ』はゲイリー・ゴーツマンという数々のヒット作を生み出した映画プロデューサーの青春にインスピレーションを得て映画化された作品。アンダーソン監督と同じく監督賞に選ばれたケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』も、アイルランド扮争時の監督自身の記憶を自ら伝記映画にした98分の映画で、キアラン・ハインズというベルファスト出身の熟年俳優が助演男優賞でノミネートされている。主演男優賞では、テニス界の女王姉妹ヴィーナス&セリーナ・ウィリアムズの破天荒な父を描いた『ドリームプラン』の主演ウィル・スミスが最有力。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でも人気のアンドリュー・ガーフィールドは『Tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』というロック・ミュージカル『レント』の作曲家ジョナサン・ラーソンの自伝ミュージカル映画でノミネートされている。

第5回:第94回アカデミー賞ノミネート作品【 1. 	メークとヘアスタイリングから読む女優たちの挑戦】

実在した女性たちに体当たりした主演女優たち

映画『タミー・フェイの瞳』の主演女優ジェシカ・チャステインは、現在のハリウッド女優をリードする、プロデューサーとしても力のある存在。主演する作品にも彼女の情熱は反映されていて、映画『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』では人種差別問題にかかわる南部の女性を好演。映画『ゼロ・ダーク・サーティ』でもアメリカ同時多発テロの首謀者ビン・ラディンを10年間追い続けたCIA女性医捜査官を魅力的に演じていた。

第5回:第94回アカデミー賞ノミネート作品【 1. 	メークとヘアスタイリングから読む女優たちの挑戦】
©2021 20th Century Studios. All rights Reserved.

この新作『タミー・フェイの瞳』は彼女の3度目のノミネーション。80年代アメリカ社会ではよく知られていたテレバンジェリストが主人公のこの映画。日本ではあまり耳にすることがないテレバンジェリストとは、宗教伝道師の肩書き。タミー・フェイは夫ジム・ベイカーとともにPTLという特有のクリスチャン信者の帝国を築いたものの、金銭の不正とスキャンダルに巻き込まれ、夫は逮捕。彼女は離婚後、テレビ伝道師の仕事も失うのだった。チャステインのメイクは特殊メイクまで施された派手なもので、歌声やパフォーマンスも本人を知らない人にとっては特有だが、クリスチャンの伝道師としてはめずらしく、同性愛やLGBTコミュニティの人たちも差別なく迎えたことなどの伝説は感動のラストで描かれている。

第5回:第94回アカデミー賞ノミネート作品【 1. 	メークとヘアスタイリングから読む女優たちの挑戦】
Daniel McFadden:Searchlight Pictures

大御所女優になったニコール・キッドマンが主演女優賞に選ばれたのが『愛すべき夫妻の秘密』。50年代にアメリカで大人気だったお茶の間ドラマ「アイ・ラブ・ルーシー」のショービズ夫妻をドキュメンタリータッチで描いた鬼才アーロン・ソーキン監督作品。映画は女優ルシル・ボール夫妻の複雑な関係を描いたもので、ニコール・キッドマンも本人とは思えないほどに凝ったメイクで実在したルシル・ボールを再現。

役のために彼女が特殊メイクをあつらえたのはこれが最初ではない。映画『めぐりあう時間たち』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したときのメイクも別人のようだったが、今作品では5度目の主演女優ノミネーションで揺るがない余裕が感じられる。男優ハビエル・バルデムも主演男優としてノミネートされていて、キューバ系米移民だったデジ・アーナズというルシル・ボールの夫で共演者でもあった男優の存在に焦点が当てられているところなど、ハリウッド・ショービジネスの歴史に興味がある人は必見である。

第5回:第94回アカデミー賞ノミネート作品【 1. 	メークとヘアスタイリングから読む女優たちの挑戦】
©Amazon Studios

アカデミー賞主演女優賞のノミネートを逃すという一般の期待を裏切ったのが、メイクアップ/ヘアスタイリング部門でノミネートされている映画『ハウス・オブ・グッチ』の女優レディー・ガガ。彼女の実力は『アリー / スター誕生』でも発揮されたが、今回はシンガーとしてではなく、ビジネスの野望にあふれる女性パトリツィア・レッジアーニ役。いまや世界中で知らない人がいないほど有名になったファッションブランドの栄光が一族の崩壊とともに、どう法人化したかを同名のノンフィクション小説を元に描いている。映画の世界観はグッチ創業者グッチオ・グッチの息子、孫など男性のファッションの歴史も学べるほどで、イタリアの博物館を訪れたような気分になる。