ドキュメンタリー映画『The Commandant’s Shadow』ーナチス将校家族のその後
「Zone of Interest」という言葉の由来は、このドキュメンタリー映画で説明される。もともとはドイツ語Interessengebiet。ナチスがアウシュビッツ収容所のことを呼んだ名称で、英訳がZone of Interest、日本語は映画のタイトルとして、『関心領域』と訳されている。
このドキュメンタリー映画『The Commandant’s Shadow(原題の直訳:司令官の影)』は、絞首刑に処されたチス司令官ルドルフ・ヘスの87歳の息子、ハンズ・ユルゲン・ヘス(Hans Jürgen Höss)が、父親の残酷なレガシーの陰でひっそり生きていたものの、ドキュメンタリーの撮影を通して、幼少期の思い出がつまったアウシュヴィッツ収容所の壁隣の元ヘス家の住んでいた家をたずね、さらには、その壁外の収容所にはじめて足を踏み入れ、父親の残した負の歴史に直面する。さらには、両親は殺され、ユダヤ人でありながら、チェリストとしての才能をかわれてアウシュヴィッツの囚人オーケストラで働きつづけ、死の行進を見つづけた老女アニタ・ラスカー・ウォルフィッシュ(Anita Lasker-Wallfisch)とイギリスで対面するという前代未聞のドキュメンタリー映画。
監督は、数々のドキュメンタリー秀作を手掛けてきたダニエル・フォルカー。ワーナーブラザーズとHBOで劇場特別上映後、配信される予定。世界中で新たに戦争が勃発し、第2次世界大戦の戦争体験にいまだ翻弄される当事者と、その孫たちそれぞれがつらい過去をふりかえりながらも、お互いに歩み寄ることが最も大事であることを教えてくれるこのドキュメンタリー映画。ヘス一家の家族写真はまるで『関心領域』の一シーンかと思うほど、写真の色も立ち位置もいっしょで、一瞬戸惑うほど似通っていて、改めてジョナサン・グレイザー監督のこだわりが分かる。両者ともアウシュヴィッツ大量殺戮のような惨事を2度と起こしてはいけないという強いメッセージで溢れている。
文 / 宮国訪香子
空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがる。1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘドウィグら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか。
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス「関心領域」(早川書房刊)
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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公開中
公式サイト thezoneofinterest
監督:ダニエル・フォルカー
出演:ハンズ・ユルゲン・ヘス、アニタ・ラスカー・ウォルフィッシュ
配給:HBO Documentary Films、Warner Bros. Pictures、Fathom Events