西海岸時間の7月14日から11月9日(0時1分)まで続いた118日間の全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキ終了発表で、ハリウッドに活気が戻っている。組合の代表で、TVシリーズ「ザ・ナニー」の主演女優でもあるフラン・ドレッシャーは、「やりました !!!! 10億ドル以上の契約!今までの契約の3倍!この歴史的なディールのために、組合員たちは耐え抜いてくれた !! 弁護士、家族、シスター組合の絶え間ない応援に感謝します。そして全米テレビ映画製作者協会(AMPTP)が我々の声に耳を傾けてくれたことにも。」と喜びの言葉をインスタグラムで発信していた。
11月に入り、ほぼ日夜行われているアカデミー賞前哨戦に向けた試写会場にも、続々と主演スターが登場。公に宣伝活動が可能になった喜びは明らかで、現在、アカデミー賞作品賞ほか候補でトップ路線を走る『オッペンハイマー』Q&Aでは、今年初、ロバート・ダウニー・Jr.、エミリー・ブラント、キリアン・マーフィーが関係者の前に勢揃いし、キリアン・マーフィーはストライキ中、ずっとチーズを食べていたなど、ジョークをとばしながら場を盛り上げていた。このコラムでは、年末の秀作披露カウントダウンで華やぐハリウッドの熱気と、ストライキ後の組合新契約の一部を紹介したい。
全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)ストライキの合意内容
俳優組合のメンバーは現在約17万人。11月11日夜にSAGが発表した新契約のサマリー(3年分)に86%の組合員が可決すれば、正式にストライキ終了となるそうで、投票締め切りは12月5日。
内容は幅広く、リジデュアル(印税),キャスティングやオーディションの規則,養老年金や健康保険保守制度、パフォーマンスキャプチャー、報酬、公平な雇用機会基本ルール、セクシュアル・ハラスメントなど、職場でのハラスメントを防ぐ内容ほか、最も合意が難しかったAIに関する項目など18ページに及ぶ内容がカバーされている。
合意後の記者会見の段階では、数人の組合理事がAI使用の保護が今のままでは不十分だと指摘。9月末にすでにストライキを終結させたシスター組合の全米脚本家組合(WGA)のほぼ十倍以上の組合員で構成されている全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)であるだけに、組合員全員が満足する契約にたどりつくまでには妥協をせざるを得なかったようだ。 18ページにまとめられた契約はこちら。
最も大きな争点となっていたAIに関する文書を簡単にまとめると、雇用者が俳優のデジタルレプリカを作りたい場合、生身の俳優(パフォーマー)と明確で判然たる協定書を交わす必要がある。雇用者は協定書に基づいた報酬を支払えば、その後の追加レプリカ使用の報酬は発生しない。しかし、そのレプリカを再利用する際、元の協定書で同意した脚本や演出が変更されている場合は、新たな許諾を得る必要がある。俳優(パフォーマー)が同意した内容は彼らの死後も続き、雇用者がデジタル・レプリカを再利用する際は新たな同意書、報酬、そして印税を約束しなくてはならない。さらに、背景として登場したエキストラや定額で雇われた俳優のデジタル・レプリカ使用に関しても、レプリカとなって稼働した日数や印税が加算されて支払われなくてはならない。個々に雇用者と特別な契約書を交わすAリスト俳優(パフォーマー)には、デジタルレプリカの追加稼働料金は自動的に発生しない。さらに、シンセティック・パフォーマー、つまり、CGなどでつくられた、生身の人間を介しない俳優(パフォーマー)を使うことは、組合側への打診が義務づけられている。
配信サービスの報酬に関しても大きく契約内容を強化し、配信の視聴率などの統計データを公開することになった点は大きい。そして、配信スタートから90日間の間、米国内のサブスク率が20%以上で支持された番組の出演者は、印税のほかに配信ボーナスを受け取ることになる。その配信サービスのボーナス25%は組合の配信特別予算として分配される。そのほか、キャスティングとオーディションに関しても、新型コロナ・ウィルス後の俳優活動が反映されていて、ヴァーチャルなオーディションが増える中、俳優たちはオーディションテープの録画のために、高額な機材を要求されないことが、組合契約に含まれたり、脚本を暗唱する義務もなしと、雇用者側が俳優への要求を軽減するようにまとめられている。